研究概要 |
これまで我々は,カロリー制限による抗老化作用に関わるとされているSIRTIが腎臓においてアポトーシス制御などの生理的役割を果たしている事を報告してきた。今回我々は,加齢性臓器障害の発症に関与するミトコンドリア(Mt)異常に着目し,加齢性腎障害の発症におけるSIRT1の関与を検討した。加齢マウス(24ケ月齢)では若年マウス(2.5ケ月齢)と比べ,尿中アルブミン排泄量の増加,糸球体、問質の線維化,尿細管細胞における8-OHDGの蓄積,腎内脂肪蓄積,アポトーシス経路の充進,MO浸潤、ICAMの mRNA発現量の増加を認めた。この加齢腎では,SIRT1のmRNA発現量が有意に減少していると共に,MtDNA容量の減少,MtDNA欠失変異の増加,MtDNAにおける8-OHDG蓄積の増加,Mt機能関連分子のmRNA発現量の減少が認められた。更にこれらの加齢性腎病変,SIRT1発現量の低下,ミトコンドリアDNA障害は12ヶ月間にわたるカロリー制限(60%制限食)により有意に改善した。また,加齢腎で減少を認めたSIRT1発現量とMtDNA容量は強い正相関を示し,更にSIRT1発現量,MtDNA容量はそれぞれICAM発現量と強い負の相関を示した。これらの結果から,加齢性腎障害の発症にMt異常が関与し,更に,そのMt異常の背景には抗老化分子SIRT1発現量の低下が関与している可能性が示唆され,カロリー制限を模倣する状態,薬剤投与が加齢腎病変の進展抑制につながるものと考えられる。
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