研究概要 |
天体の学習では,平面的な材料である黒板・ノート類だけでは思考を深めるのに十分ではないことは言うまでもない。何をどう考えてよいかわかりにくいからである。そこにはどうしても立体模型が必要になってくる。しかも,単元を通じて一貫したイメージを持たせながら,繰り返し使えるものでなければならない。そこで,地球儀に透明半球をのせて電球を太陽に見立てて太陽観測をさせるというモデル実験をおこなってきた。その結果,地球儀にたっている「人形」が宇宙から見つめられている「私」であり,「私」の上には「天球」にあたる「透明半球」があり,「私」の下には影を映す「地面」にあたる「地平面」があることを理解させることができた。しかしながら,地球上から地球外へ視点をうつして考えさせることは容易ではなく,地球儀に最近よく使われ始めた小型のUSBカメラや太陽電池パネルをのせて,液晶画面上で確認させるなどの作業を,生徒一人一人に経験させることの必要性を強く感じた。 そこで,今回の研究助成を受けて,地球儀に透明半球を乗せて作った『アース君』に必要に応じて小型のwebカメラを取り付け,天動説的宇宙観と地動説的宇宙観をうまく結び付けられるような,また単元を通じてアース君を使用し,一貫したイメージを持たせられるような単元構成をおこない,授業を実践し,その効果を検証することにした。 今回の実践では,太陽と地球の大きさの違いを10億分の1のサイズで考えさせあと,豆電球で作ったオリオン座をモデルに遠い星と近い星を見分けることができるかどうかを考えさせた。子どもたちは,1.3cmかない地球に驚き,150mも離れた地球にそのスケールの大きさを感じ,天球という距離を無視した考え方ができることが確認できたようであった。次に,地球から見た太陽の一日の動きを観察させた後,アース君を用いて地球外からの視点での確認をさせた。その際,実際の日の出の方角をもとに,アース君で同じように日の出を見ることを考えさせ,地球の自転の向きの意識付けも行った。アース君での実験と実際の観察とで同じ結果がでたこと,またwebカメラの映像が実際の地球と同じであったことから,生徒は視点の切り替えのこつをつかめたようであった。視点の切り替えにさらに慣れさせるために,世界各地の太陽の動きについて考えさせる授業を組み込んだ。生徒には,まずは天球上で予想させ,そのあとアース君とwebカメラを使って確認させた。生徒の予想では,天の子午線上での太陽の通過位置はバラバラであったが,世界のどこでも東から西へという動きについてはおおむね揃っていた。このことからも,生徒が予想をするときに,地球外からの視点を大切にできるようになったことが分かった。公転や地軸の傾きについては,天体の視運動をもとに,アース君を使って自分たちで試行錯誤させながら,地球の実運動へと結び付けさせるようにした。 初めての実践であったが,生徒自らが試行錯誤を繰り返すなかで視点の切り替えを何度も行うので,視点の切り替えがスムーズに行えるようになったと考えられる。
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