研究概要 |
研究目的:福島、栃木、茨城県にまたがる八溝山地の周辺には、新第三系の砕屑岩や火山砕屑岩が厚く堆積し、またこれらの地域は日本海の拡大に伴う、いわゆるグリーンタフ火成活動の縁辺部でもある。八溝由地の中央にある鷲ノ子山塊の東側、茨城県大子・山方地域の浅川層と大宮地域の桜本層および玉川層には、熱帯ないし亜熱帯性の門の沢貝類化石動物群中の内湾干潟を占めたArcid-Potamid群集カミ認められ、その年代は16Ma付近である。(高橋,2001)。今回、鷲ノ子山塊の北西側にある栃木県馬頭地域の小塙層におけるArcid-Potamid群集の内容とその年代を明らかにするのを目的とした。 研究方法・内容:1981年以来数度にわたり馬頭地域の地質調査を行ってきた。これまで、小塙層最下部よりCrassostreaなどの潮間帯砂礫底種、下部の灰緑色凝灰質細粒砂岩からAcila submirabilisなどの浅海砂泥底種、上部の浮石質凝灰岩よりGloripallium crassiveniumなどの岩礁固着性種を採集した。 研究成果:馬頭地域東部の冥賀に分布する小塙層最下部の火由礫を含む浮石質凝灰岩中に挟在する浮石を含む灰色泥岩より、Geloina sp., Terebralia sp., Vicarya yokoyamai,"Vicaryella" notoensis, Cerithideopsilla minoensis, Tateiwaia tateiwai, T. yamanariiなどのArcid-Potamid群集の主要構成種が産出し、栃木県側では初めての報告である。GeloinaやTerebraliaの現生種はマングローブ・スワンプに生息し、他の沿岸砂底種を伴わないことから、この貝化石群集は、マングローブ林の海側外縁部の潮汐低地付近を占めた現地性に近い群集であると考えられる。また、近くに植物根を含む泥岩も見られることから、後背湿地の存在も推定される。小塙層最下部のArcid-Potamid群集の産出年代は、宇佐美ほか(1996)による浮ノ遊性有孔虫のOrbulian datumと田中・高橋(1998)による石灰質ナンノ化石からN8/N9境界付近の15.2Maあたりと推定される。これは明らかに他地域のArcid-Potamid群集の産出年代より若く、グリーンタフ火成浩動の末期で日本海の拡大が終了に近づく頃である。一方、茨城県との県境である馬頭地域大山田の新第三系は茨城県大子地域から連続しており、今回、大山田下郷の浅川層下部のサンドパイプに富む砂質泥岩からCerithideopsilla sp.を、灰色泥岩から"Ostrea" sp.を、れきを含む凝灰質砂岩から門の沢貝類化石動物群の代表的な浅海砂底種のDosinia nomurai, Siratoria siratoriensisを採集した。また、上部の泥岩からは沖合泥底種のConchocele bisectaを得た。しかしながら、Arcid-Potamid群集の主要構成種は今のところ採集できていない。これらの地層の上位には巨礫を大量に含む礫岩が不整合に覆っている。この礫岩は馬頭地域の小塙層には見られないもので、おそらく小塙層の堆積前に形成されたものと思われ、大きな造構運動、たとえば棚倉破砕帯や日本海拡大の影響が示唆される。
|