研究目的 ヤシオオオサゾウムシは東南アジア原産のヤシ類の大害虫である。国内では1975年に沖縄で被害が確認されて以来、九州から西日本にかけて植栽されているカナリーヤシ(フェニックス)の枯死が大きな社会問題になっている。長崎県における本種による被害の詳細な記録や遺伝子解析(田中:2007)が行われたが、その他の県での詳細な報告はされていないそこで、国内で繁殖している系統およびその起源を明らかにする研究を行った。 研究方法 国内の被害地のうち長崎、長崎、宮崎、福岡、岡山についてはミトコンドリアDNA(CO1)領域438塩基対の配列が同一(田中:2007)であり、単一の系統であることが示された。そこで今回は、本来の分布地(海南島、台湾)及び上記以外の国内の被害地(沖縄、鹿児島)のサンプルを得て、同領域の塩基配列を決定して比較・検討した。 研究成果 塩基配列を比較したところ、(1)鹿児島と沖縄は長崎と同一であった。(2)台湾産では塩基配列が長崎と同一の個体や1塩基が置換(111番目のAがGに置換)した個体がみられた。(3)海南島産では鹿児島・沖縄との相同生が95%(17塩基の置換)であった。 これらのことから、国内で繁殖している本種の系統は、台湾からもたらされたものである。また、台湾にはいくつかの系統が存在する。そして、さらに南に位置する海南島には台湾とは明らかに別系統である種が存在するといえる。 つまり、本種の本来の生息地には複数の系統が存在する。このうち国内に侵入して繁殖している系統は1つのみであり、その起源は台湾であることが明らかになった。
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