目的)ドウケツエビ科は深海底での採集の難しさにより標本が希少であること、損壊した不完全標本が多いことから、研究が遅れている分類群である。これまでに6属33種が知られるが、記載年代が古くて今の基準に満たない種や、既知種でも厳密には属の定義に従わない種などを含み、分類学的に混乱している。また、その系統的な位置には不明な点が残されている。そこで、本研究は本科の既知種再記載、誤同定訂正、新種記載などの分類学的検討を行って既存の分類体系を見直すこと、さらに、深海における生物の種分化機構を探り、波及効果として甲殻類と他の生物との相互関係(共生、寄生)の解明に役立てることを試みた。 方法)国立科学博物館、千葉県立博物館、パリ自然史博物館、国立台湾海洋大学等が所蔵する標本、約1000個体を対象に、外部形態の詳細な構造を顕微鏡により観察した。また、採集した個体の一部を実験水槽で一定期間飼育し、得られた幼生の形態から高次分類推定の手がかりとした。 成果)本科では体各部棘、付属肢の鯉・外肢、掃除用器官、および歩脚形状に、他の共生種よりも顕著な退化傾向が認められた。ヒメドウケツエビ属の発生様式は、ふ化幼体の眼や歩脚、腹肢が機能的に分化するなど、海産十脚甲殻類の中でもかなり特殊な直接発生の例であった。形態から得られた系統仮説と発生、分布等を検討した結果、本科は海綿類と共生関係を築く中で各器官が退化するとともに、発生様式が浮遊型から省略型へ進化した。これにより地理的隔離種群が生じ、分化が進んだと考えられた。近年の各機関の調査により標本数も増し、未記載種が約20種出現している。うち、平成19年度までに4種の新種発表を行った。今後新たな分類基準によって新種記載を進めつつ、その仮説についてDNAを用いた系統解析で客観性を判断していく予定である。
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