研究概要 |
免疫抑制剤であるタクロリムスの副作用として、血糖上昇の耐糖能障害がある。そのタクロリムスによる耐糖能障害は以下のメカニズムが考えられている。 タクロリムスはIL-2、3、4、5やIFN-γなどのサイトカインの産生を抑制するが、インスリン感受性亢進性サイトカインの分泌も抑制すると考えられ、インスリン抵抗性が惹起され、インスリン分泌不全の体質を有する患者に糖尿病を発症させるものと考えられている。さらにこの形質転換にリガンド依存性核内レセプター型転写因子のPPARγ(Peroxisome Proliferator Activated Receptor γ)が、倹約遺伝子として重要な役割を果たしており、現在、PPARγの低活性型のPro12Ala多型が、ヒト糖尿病疾患感受性遺伝子となることが明らかになっている。タクロリムス誘発性糖尿病の発症がPPARγ2やアディポネクチン遺伝子多型の影響を受けると推測されることから、タクロリムス誘発性糖尿病におけるPPARγおよびアディポネクチン遺伝子多型の影響について検討した。 倫理委員会の承認を得た90名の腎移植患者を対象に、本研究を実施した。タクロリムスの血中濃度を測定し、一方で各患者の血液から、DNAを抽出し、PPARγ(Pro12Ala、161C/T)、PPARγcoactivator-1(Gly482 Ser,Thr394Thr)、adiponectin(45T/G,276G/T)、IL-4 C-590T、IL-10 A-592C、IL-12B A1188C、INFγ A874T各遺伝子多型をPCR-RFLP法を用いて解析した。 PTDMと診断された患者は71名中21名であり、平均年齢は47.8歳と非PTDM患者41.3歳と比べて有意に高かった(P=0.0278)。PTDMにおけるタクロリムスの平均トラフ値は、非PTDMよりも高い値を推移した。アディポネクチン(45T/G)遺伝子多型が移植後高血糖に影響したが、タクロリムスの血中濃度には影響しなかった。グルココルチコイド受容体(NR3C1)のC/C遺伝子多型を有する患者において、移植後高血糖が発症しやすい傾向にあった(P=0.0367)。PTDMの患者で急性拒絶を起こす割合は約50%であり、非PTDMにおける急性拒絶発現に比べ高かった。 アディポネクチン(45T/G)Gアレルを有する患者とグルココルチコイド受容体(NR3C1)Gアレルを有する患者において、PTDMの発症が少ない傾向にあったが、タクロリムスの血中濃度は移植後高血糖に影響を及ぼさなかった。タクロリムスよりもステロイド剤併用が移植後高血糖を誘発すると考えられる。
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