研究課題/領域番号 |
19F18747
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 外国 |
研究分野 |
層位・古生物学
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
豊福 高志 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(超先鋭技術開発プログラム), 主任研究員 (30371719)
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研究分担者 |
CHARRIEAU LAURIE 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2019年度)
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配分額 *注記 |
2,300千円 (直接経費: 2,300千円)
2019年度: 1,200千円 (直接経費: 1,200千円)
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キーワード | 海洋酸性化 / pH / 環境再現飼育実験 / 有孔虫 / 炭酸カルシウム |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では酸性化しつつある海洋において、石灰化生物がどのように応答するか、有孔虫を例として実験的に検討する。海水は様々な緩衝作用があるが人為起源の二酸化炭素濃度の上昇に伴い海洋酸性化の影響が及んでいる可能性について注目が集まっている。石灰質有孔虫類は炭酸カルシウムの殻を持ち、その石灰化過程とその維持において海洋酸性化に敏感に反応する可能性がある。研究は、現場観測・試料採取、飼育実験、殻の観察、遺伝子発現解析を行い、底生有孔虫が海洋酸性化にどのように応答するかを検討する。
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研究実績の概要 |
海洋酸性化は、海洋生物、特に石灰化生物にとって殻などの硬組織が溶解する恐れがあり、様々な負の影響を与える可能性があるため、地球温暖化とともに人為起源二酸化炭素が引き起こす二重の地球環境問題として世界的に社会問題化している状況がある。大気中に放出される人間活動に由来する二酸化炭素の排出量のうち、30%が海洋に溶存していると考えられている。二酸化炭素は海水に溶解すると水素イオンを放出するため、海水のpHが低下する。すでに高緯度域では現実にそのような状況が生じているとの報告もある。 有孔虫はCaCO3で構成される殻を持ち、海洋におけるCaCO3の生産量が多いため、海洋酸性化について研究するための優れた材料となっている。これまでに、カリフォルニア湾、フランスのアルカション湾、バルト海など、天然での低pH環境周辺で有孔虫群集が報告されている。これらの研究では、一般的に最低pHでは有孔虫の密度や多様性が低く、殻が溶解する兆候も見られた。バルト海の報告は、本課題のシャリオ特別研究員の成果であり、フィールドでの調査では、変化する環境因子が多様であるために、必ずしも海洋酸性化との因果関係を明確に示すことが難しいという側面を経験した。そこで、本課題においては海洋酸性化が著しく発展したモデルともいうべき海底火山活動域における有孔虫の群集解析と、実験室内で水槽中の海水に二酸化炭素を溶解し、海洋酸性化を模した実験環境を構築した上で、有孔虫試料に与える影響を評価し、野外研究と飼育実験の二面展開とすることとした。海底火山域における有孔虫群衆については種同定とデータ処理を行い、その他の近隣海域の有孔虫群衆と比較を行う。海洋酸性化を模した環境再現飼育実験では実験水槽の構築し、有孔虫をその環境下で飼育、その応答を個体の行動や殻の微細構造、MXCTによる殻の密度測定、結晶形など多角的に観察する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海底火山域における有孔虫群衆解析において、調査した2つのステーションで有孔虫類の密度は低いが、通常一地点では見られないほど多様性の高い群集を見出した。2つの観測点間の種の組成の大きな違いは、主に餌となる有機物組成の質と量に支配されていると考えられる。さらに、2つの観測点が西之島とその周辺の火口に近接していることが、種の組成に火山活動が影響を与えている可能性が指摘できる。火山活動に関係した、二酸化炭素などのガスが溶存することで、環境中のpHが低下した可能性がある。火山活動の影響を受けた深海有孔虫生態系についてはあまり報告例がなく、本研究の貢献は少なくない。 室内環境再現飼育実験においては共生藻類を有する有孔虫を用い、pH6.9の試料において殻の溶解がかなり進み、殻のほとんどが溶解した個体もみられたが、すべての個体が生存していた。これらの個体を通常の飼育環境に近いpH7.8に戻したところ、明条件下において再石灰化が見られた。光合成によってエネルギーを獲得できた結果、再石灰化したと考えられる。このような実験環境下で明瞭な再石灰化が見られることは非常に稀で、ユニークな研究結果を得ることができた。しかし再石灰化した殻は奇形であり、その殻の超微細構造や結晶形態も通常とは変化していた。これらの結果から、共生生物を含む底生有孔虫は、たとえpH低下に対してある程度の抵抗力と回復力を示したとしても、海洋酸性化条件の影響を強く受けることが示唆された。 以上の成果は学会発表で報告し、専門研究者らと議論を行った。また海洋酸性化の環境再現飼育実験の結果をスイスで開催された微古生物学に関する国際シンポジウム(Foram-Nanno Spring meeting 2019, The Microplaeontological Society)において、ポスター発表を行い、ベストポスター賞を受賞した。
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今後の研究の推進方策 |
海底火山域における有孔虫群衆解析においては底生有孔虫(>63μm)を選別して双眼実体顕微鏡下においてハンドピックで豊福が拾い出したものを、走査型電子顕微鏡などを併用して形態観察を行い、種を同定した。種同定には、我が国周辺海域の有孔虫の専門知識が必要であるので、論文検索を行った上で、横浜国立大学の河潟教授と伴にいくつかの同定の難しい種について同定を進めている。また、種同定を進めている部分以外の論文執筆を共著者と密に議論を行いながら進めている。またオープンアクセスジャーナルに投稿する為、雑誌の選定なども進めている。 室内飼育実験では、二酸化炭素のバブリングにより、飼育海水が様々なpHに制御可能な環境再現飼育実験水槽を伴に構築した。本実験には共生藻類を持つ底生有孔虫であるPeneroplis pertususを用いて、海洋酸性化条件を再現した培養実験を行った。pHとアルカリ度は毎週モニターし、有孔虫の殻の溶解がどのくらいの曝露時間で起こったのか、有孔虫の生死などをつぶさに観察した。脱灰したが個体に対し、微分干渉顕微鏡を用いて細胞の原形質流動を確認した。流動が確認されまだ生きている個体を通常のpH値に戻し、暗条件または明条件の下で飼育を行ったところ、明条件下でのみ再石灰化が起こった。これは個体が保持していた共生藻類の光合成によってエネルギーを獲得できた結果であると考えられる。今回使用したそれぞれの条件の個体に対して走査型電子顕微鏡を用いた殻の微細構造観察や、MXCTを使った殻の密度測定、再石灰化した個体に対しては殻の結晶形の測定などを行った。今後は得られた殻のMXCTのデータを密度データに変換し、比較を行う。また結晶形の測定を行ったところ、再石灰化した部分にのみ異なる結晶形を得ることができた。今後このデータをより精査する。加えてデータを取りまとめ、引き続き論文執筆を行う。
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