研究課題/領域番号 |
19F19354
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 外国 |
審査区分 |
小区分26020:無機材料および物性関連
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
荻野 拓 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (70359545)
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研究分担者 |
SUGALI PAVAN KUMAR NAIK 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2019-10-11 – 2022-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2020年度)
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配分額 *注記 |
2,200千円 (直接経費: 2,200千円)
2020年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
2019年度: 400千円 (直接経費: 400千円)
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キーワード | 超伝導 / 磁性体 / 臨界電流 / 鉄系超伝導体 / バルク磁石 |
研究開始時の研究の概要 |
本申請は、独自開発の物質を活用した革新的超伝導バルク磁石の開発を目指す研究である。申請者らのグループで見出された鉄系超伝導体CaKFe4As4は、高い転移温度と臨界電流密度を持つが、合成条件が非常に狭く線材化のめどは立っていない。一報超伝導バルク磁石応用ではシース材が不要なことから、CaKFe4As4の高い特性を活かすことが可能である。CaKFe4As4は他にも様々な利点を持ち、これまでの超伝導バルク磁石では不可能であった高い磁場均一性や大幅な低コスト化が可能である。本研究によるコンパクトで安価、かつ取扱の容易な超伝導バルク磁石により、バルク磁石の大幅な普及が期待できる。
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研究実績の概要 |
本研究では、新規鉄系超伝導体CaKFe4As4(CaK1144)を用いた革新的な超伝導バルク磁石の開発をめざした。CaK1144は、高い転移温度と、転移温度近くまで高い臨界電流密度を維持する優れた特性を有し、キャリアドープが不要で特性が均一、かつ多結晶体でも高い臨界電流密度が実現可能である。一方で合成条件が非常に狭く、特に超伝導線材化に必須なAgシース材等との反応で容易に分解することから、線材化のめどは立っていない。そこでシース材が不要、かつ均一性などの特徴を活かした応用として超伝導バルク磁石の開発を目指した。今年度は、前年度に確立したCaK1144バルク作製手法を元に、更なる高特性化に取り組んだ。CaK1144は超伝導転移温度(Tc)が一意に決まる物質と思われていたが、合成後の再焼成より変化することを見出した。アニール条件を最適化した結果、Tcは35K近くまで向上し、更に結晶中の特性が均質化し、超伝導転移がよりシャープになることが分かった。またこれによりTcだけでなく臨界電流特性(Jc)も向上することを見出した。そこで放電プラズマ焼結(SPS)法で作製したCaK1144バルクにアニールを適用することで、これまで鉄系超伝導体で報告されている多結晶バルクで最高レベルのJcを達成することに成功した。また昨年度見出したSn添加効果について、より詳細に条件を検討した。添加量、添加形態、熱処理条件等複数のパラメータをそれぞれ最適化することで、通常の焼結のみで3*10^4A/cm^2のJcを達成した。また多結晶CaK1144のトンネル電子顕微鏡(TEM)による微細組織観察を行い、CaK1144単結晶と同様に積層欠陥が存在すること、一方で厚みや密度などが異なることを明らかにした。これらの成果を国際学会招待講演や学術誌への発表により明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、昨年度確立した作製した単相CaK1144試料の合成手法、SPS及び構成相・超伝導特性の迅速な評価体制を元に研究を進めた。熱処理条件を最適化する過程で、CaK1144は焼結後のアニールにより特性が改善することを見出した。これまでCaK1144の超伝導特性は合成時に決まり、合成後に熱処理すると相が分解して特性が劣化すると思われていた。一方500℃程度の低温で熱処理すると、Tcが35K近くまで向上し、更にJcが向上することを見出した。また特性の向上だけでなく特性の均質化が起こり、一方で相の分解は抑えられることが分かった。この手法をSPS法で作製した高密度バルクに適用することで、超伝導特性がシャープになり、SPS自体の合成条件最適化と組み合わせることで、鉄系超伝導体で報告されている多結晶バルクで最高レベルのJcを達成することに成功した。 また昨年度見出したSn添加による超伝導特性向上についても、より詳細に条件を検討した。昨年度のような温度と時間だけでなく、添加量や、更にCaK1144合成前の原料への添加など、添加形態も見直して特性の向上を図った。複数のパラメータをそれぞれ最適化することで、3*10^4A/cm^2のJcを達成した。この値はSPSバルクと比較すると低いものの、通常の焼結のみで達成できたものであることから、バルクの大型化に当たっては有利である。 また多結晶CaK1144のTEMによる微細組織観察を行い、多結晶体であってもCaK1144単結晶と同様に積層欠陥が存在することを確認した。これらの欠陥はCaK1144の高Jc化に寄与しているもので、応用に当たって有望な知見である。一方で積層欠陥の厚みや密度などが異なっており、これらが合成手法に依存するものであることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までに確立した高純度CaK1144試料の作製技術、高密度・高特性バルク作製技術を基盤として、実際の応用に向けてさらなる特性向上に取り組む。捕捉磁場向上のために条件最適化元素添加等によるJcの向上に加えバルク体の大型化を行うほか、捕捉磁場などの評価体制も拡充する。 高Jc化に当たっては、SPS法によるバルク作製の更なる条件最適化を進めるとともに、Jc向上が確認されたSn添加をSPS法に適用するほか、アニール条件の最適化も行う。またSPS法だけでなく、バルクへの電流印加を行わないホットプレス法による焼結も試み、電流印加効果を明らかにする。 これらと並行して、より高い捕捉磁場を達成するために大型バルクの作製も試みる。既に10mmφ以上の大型バルクの作製に成功し、これまでに作製した小型バルクと同等の性能を有することを確認済みである。また大型バルクの作製に当たっては、原料粉末の効率的な合成が課題であり、ボールミル等を使い大量の粉末を準備する工程を確立することで、迅速な合成・評価体制を整える。またバルク体の特性評価には、実際に捕捉できる磁場強度を測定することが不可欠である。共同研究などを通じ、総合的に特性評価を行える体制を確立する。
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