研究課題/領域番号 |
19H00817
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分26:材料工学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
秋山 英二 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (70231834)
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研究分担者 |
小山 元道 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (20722705)
味戸 沙耶 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (20903834)
北條 智彦 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (50442463)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
46,020千円 (直接経費: 35,400千円、間接経費: 10,620千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2022年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2021年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2020年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2019年度: 31,460千円 (直接経費: 24,200千円、間接経費: 7,260千円)
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キーワード | 水素脆化 / 水素トラップ / 昇温脱離分析 / 鉄鋼 / 遅れ破壊 / 高強度鋼 / 昇温脱離 / 昇温脱離法 / 応力 / マルテンサイト鋼 / 引張試験 / 水素 / 高高度鋼 |
研究開始時の研究の概要 |
水素脆化は鋼の高強度化や水素エネルギー利用の普及に伴い材料の信頼性の上で大きな課題となっている。金属中の水素は転位、空孔や粒界などの格子欠陥や炭化物等のトラップサイトに分配される。従来鋼中の水素の存在状態昇温脱離分析によって解析されているが、破壊が生じる応力負荷条件での測定は行われいない。本研究では応力下での昇温脱離分析を可能とする装置を開発し、応力負荷条件が各種トラップと水素との結合およびトラップ間の分配に及ぼす効果を明らかにする。また、銀デコレーション法により、応力除荷により脱離する局所水素の可視化を併用し、応力誘起水素トラップ・脱離挙動の理解を深め、破壊メカニズムへの寄与を明確にする。
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研究実績の概要 |
本研究では鋼中の水素のトラップ状態に及ぼす応力の影響解明を目的とする。実験的にこれを明らかにするための手段として、応力負荷条件下での昇温脱離分析装置を開発して測定を行った。オーステナイトステンレスSUS304鋼を用いた場合には、応力負荷条件で測定した水素脱離ピークは低温側にシフトした。オーステナイト鋼の場合には、水素の脱離と拡散の活性化エネルギーが近く、水素脱離ピークは水素の拡散の影響を受ける。したがって、水素脱離ピークのシフトの原因としては、応力負荷によりマルテンサイト変態が起こり、生じたマルテンサイト相中の水素拡散がオーステナイト相中よりも著しく速いことと考えられた。一方、マルテンサイトSCM435鋼を用いた場合には、水素脱離ピークに有意な高温側へのシフトが見られた。これは、応力負荷により水素トラップと水素との結合エネルギーが大きくなったことを示すと考えられる。 前述のオーステナイト鋼中の水素脱離に及ぼすマルテンサイト変態の影響を見るために、真空中でSUS304鋼およびSUS316L鋼の引張試験を行い、変形中に放出される水素を質量分析器でモニタリングしたところ、SUS304鋼の場合、ひずみの増加に伴いマルテンサイト相の体積率が増加し、これに伴って水素の放出速度が増加することが確かめられた。これとは対照的に、ひずみ誘起マルテンサイト変態が見られないSUS316L鋼では、水素放出速度の増加は見られなかった。このことから、マルテンサイト相生成による水素固溶度の低下と水素拡散の促進が水素放出に影響することが確認できた。 また、応力が水素分布に及ぼす影響を確認するため、切欠付き板状試験片に水素をチャージし、除荷時に銀デコレーション法を用い水素分布観察を行ったところ、応力集中部近傍の水素の集積を示唆する結果が得られたものの、それを検証出来る程の明確な濃度さは見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題においては、水素トラップ状態に及ぼす応力の影響を実験的な測定から明らかにするために応力負荷条件したでの昇温脱離分析装置の開発が鍵となっている。この装置は従来の水素昇温脱離分析装置とは異なり、引張試験装置と昇温脱離分析装置とを組み合わせた、真空チャンバー中での一定の応力負荷と加熱、放出水素の四重極質量分析器による測定機構を備えたものである。この装置自身の開発が大きいネックとなるが、加熱機構には他の昇温脱離分析装置では用いられない通電加熱機構を用い、温度測定には、放射温度計を用いている。この都合上、室温付近の低温部での温度の測定が難しいこと、また、温度測定の測定精度を上げるために試験片並行部の幅を大きくするなどの工夫を加えるために時間を要した。また、昇温のために通電を開始すると、それによる水素放出が促進と思われる現象が見られ、室温付近での水素放出量が多く、高温部での水素放出ピークが小さくなるなど、予想外の測定結果が得られた。測定手法に関する検討に時間がかかったことが、主な遅れの理由である。 本研究ではまた、電気化学的水素透過試験を荷重を与えた鉄の試験片で行い、応力負荷が水素の拡散係数には影響を与えないが水素の固溶度を増加させること、また、応力を負荷したマルテ ンサイト鋼にチャージされる水素は無負荷と比較して増加することなど周辺の研究を進めることができたが、切欠底近傍の応力集中部での水素集積を水素可視化法の一つである銀デコレーション法を用いた実験においては、応力集中部での水素の集積を示唆する観察結果が見られたものの、明白ではなかった。これは、応力集中部に集積する水素の濃度が、平均的な水素濃度の倍程度にしかならないためであろうと考えられた。応力の影響を水素可視化によって明確化する条件の検討にも時間を要することも遅れの原因となった。
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今後の研究の推進方策 |
1つの大きな課題は、開発した応力下水素昇温脱離分析装置による、水素トラップと水素の結合エネルギーが明らかに応力によって変化していることを水素放出曲線の測定結果によって示されることを検証し、さらに応力レベルと水素脱離ピークの温度シフトの関係を明らかにするために、応力水準を変化させて昇温脱離測定を行うことである。本試験には高強度マルテンサイト鋼を用いる。 SUS304鋼については、応力負荷によって水素脱離ピークの低温側へのシフトが認められているが、これは応力誘起マルテンサイト変態によって生成したマルテンサイト相が水素の拡散・脱離を促進したものであることが考えられ、真空中での引張試験結果から、それを支持する結果が得られているが、さらに、真空中での引張試験を低温で行い、マルテンサイト変態を促進させた場合の結果を明らかにする。 また、応力が水素挙動に及ぼす影響として、純鉄の電気化学的水素電流密度の場合、応力は水素の拡散係数に影響せず、固溶度を大きくする効果が認められたが、高強度マルテンサイト鋼を用い、より大きい応力条件での検討を行う。また応力負荷条件での水素チャージによって、塑性変形に加え、応力も水素チャージ量に影響を与えることが認められたため、これをさらに進めて、応力水準と水素チャージ量の変化を定量的に明らかにする。 また、応力負荷条件で集積する水素と金属組織の関係、特に、マルテンサイト鋼中の旧オーステナイト粒界での水素集積を水素可視化によって見られるかどうかを、銀デコレーション法によって明らかにする。 以上の実験結果を総合的に検討し、応力が水素の存在状態に及ぼす影響を、マクロ的に、また金属組織との対応のミクロ的な観点から明らかにしてまとめる。
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