研究課題/領域番号 |
19H00982
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分43:分子レベルから細胞レベルの生物学およびその関連分野
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
上田 昌宏 大阪大学, 大学院生命機能研究科, 教授 (40444517)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
44,850千円 (直接経費: 34,500千円、間接経費: 10,350千円)
2023年度: 8,450千円 (直接経費: 6,500千円、間接経費: 1,950千円)
2022年度: 8,450千円 (直接経費: 6,500千円、間接経費: 1,950千円)
2021年度: 8,840千円 (直接経費: 6,800千円、間接経費: 2,040千円)
2020年度: 8,840千円 (直接経費: 6,800千円、間接経費: 2,040千円)
2019年度: 10,270千円 (直接経費: 7,900千円、間接経費: 2,370千円)
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キーワード | 走化性 / 三量体Gタンパク質 / GPCR / 適応 / 細胞性粘菌 / 三量体G蛋白質 / アレスチン / 1分子イメージング |
研究開始時の研究の概要 |
細胞は誘引物質の濃度勾配を認識し、濃度の高い方に向かって移動できます。単細胞からヒト細胞まで広く見られ、走化性と呼ばれます。最近我々は、三量体G蛋白質が細胞質と細胞膜の間で局在を変えることによって走化性シグナルを伝達するという、これまでに全く知られていない仕組みを発見しました。本研究ではその仕組みを解明し「G蛋白質局在制御によるGPCRシグナリングの調節」という新しいコンセプトの確立を目指します。
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研究実績の概要 |
真核細胞の走化性は細胞性粘菌からヒト白血球に至るまでシグナル伝達の分子基盤とメカニズムがよく保存されている.粘菌細胞は走化性のモデル生物であることから,走化性シグナル伝達の仕組みに関する知見が多く得られてきた.我々は,粘菌細胞を研究対象として走化性誘引物質のセンサーであるGPCR-三量体G蛋白質(G蛋白質)に注目し,その機能解析を進めてきた.結果,三量体G蛋白質のシグナル伝達反応には少なくとも3つの機構があり,走化性誘引物質の応答濃度の異なるレンジで働くことがわかってきた.低濃度領域では高親和性GPCRによるG蛋白質の活性化によってシグナルが伝達され,中濃度領域ではG蛋白質の細胞質-細胞膜間局在制御によってシグナルが伝達され,高濃度領域では低親和性GPCRとG蛋白質の複合体形成によってシグナルが伝達される.これにより,細胞の走化性応答が10の5乗から6乗倍の広い濃度にわたって可能になっている.これまでの研究により,低濃度領域でのG蛋白質の活性化には,GAPとして働くRGSsや非受容体型GEFであるRic8が関与することが明らかになった.中濃度領域でのG蛋白質の細胞質-細胞膜間局在制御には,細胞質において三量体G蛋白質と複合体を形成するGip1が中心的に働くことがわかった.さらに,高濃度領域での走化性シグナルには,低親和性GPCRとG蛋白質の複合体形成に加えてG蛋白質非依存経路のアレスチンが関与することが明らかになった.以上のように,G蛋白質の様々な反応を組み合わせた勾配認識機構と応答濃度レンジ拡張機構について理解が深まった.走化性のGPCRシグナリングは真核生物で広く保存されていることから,他の細胞種においても同様の制御機構が働く可能性が示唆される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに走化性GPCR型受容体のcAR1と三量体G蛋白質が示す3つの反応について定量計測が可能な実験系を整備し,RGS, Ric8, Gip1,arrestinなどの制御因子の役割について解析した.三量体G蛋白質の活性化はGαサブユニットとGβγサブユニット間の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)で計測し,三量体G蛋白質のGip1依存的な細胞質-細胞膜間局在制御は共焦点顕微鏡による局在変化の観察によって計測し,G蛋白質と受容体との複合体形成は全反射蛍光顕微鏡による1分子イメージングによって計測する.また,走化性シグナル伝達系の出力にあたる走化性効率については,Two-drop assay, micropipette assay, 微小流路アッセイを用いて計測することが可能である.これらの定量計測により,低濃度領域(~1 nM),中濃度領域(~10 nM),高濃度領域(~300 nM)のそれぞれにおいてRGSとRic8, Gip1, arrestinの関与が明らかになってきた.各反応のヒル係数は約1であることから,それぞれの反応は10の3乗程度しかカバーできないが,3つの反応の応答レンジが10倍ずつ異なることにより10の5乗の応答濃度レンジを実現していることがわかった.
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に基づいて引き続き研究を進めて行く.具体的にはGip1の立体構造解析についてさらに進める.Gip1のC末側ドメインの立体構造解析はすでに完了しているが,全長を安定して精製することが難しく,加えてGip1とG蛋白質間の複合体形成も困難であることがわかっている.本年度はこの研究項目の継続の可否を判断することになるだろう.一方で,G蛋白質とその制御因子(RGS, Ric8, Gip1)やarrestinの細胞内ダイナミクスについては定量解析が実現できたため,実験的に明らかになってきた知見に基づいて数理モデルの構築を試みる.これにより,GPCRと三量体G蛋白質を介した走化性シグナル伝達のメカニズムとして新たなコンセプトの確立を目指す.加えて,ゲノム中にコードされている6種類のarrestin全てが走化性応答に関与することを示唆する知見が予備的な研究から得られてきており,その役割分担等についてさらに解析を進める.
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