研究課題/領域番号 |
19H01132
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分61:人間情報学およびその関連分野
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研究機関 | 統計数理研究所 |
研究代表者 |
吉田 亮 統計数理研究所, データ科学研究系, 教授 (70401263)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
44,980千円 (直接経費: 34,600千円、間接経費: 10,380千円)
2023年度: 7,930千円 (直接経費: 6,100千円、間接経費: 1,830千円)
2022年度: 7,930千円 (直接経費: 6,100千円、間接経費: 1,830千円)
2021年度: 11,050千円 (直接経費: 8,500千円、間接経費: 2,550千円)
2020年度: 7,930千円 (直接経費: 6,100千円、間接経費: 1,830千円)
2019年度: 10,140千円 (直接経費: 7,800千円、間接経費: 2,340千円)
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キーワード | マテリアルズインフォマティクス / 機械学習 / 分子設計 / 逆合成経路解析 / 高分子 / 第一原理計算 / 分子動力学シミュレーション / 転移学習 / 量子科学計算 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,マテリアルズインフォマティクス(MI)と呼ばれるデータ科学と材料研究の学際領域を対象とする.一般に材料研究のパラメータ空間は極めて広大である.例えば,低分子有機化合物の化学空間には,10の60乗を超える候補物質が存在すると言われている.先端材料の研究開発では,さらにプロセスや添加剤・溶媒選択等のパラメータが加わり,パラメータ空間の次元は爆発的に増大する.MIの問題の多くは,このような広大な探索空間から所望の特性を併せ持つパラメータを同定することに帰着する.本研究は,機械学習及を方法論面の柱とし,物質構造の“表現・学習・生成”を目的とするデータ科学の体系を確立し,実践・実証研究を推進する.
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研究実績の概要 |
データ駆動型材料研究のデータ科学の基盤技術に関する研究を実施した.今年度の研究成果の概要は以下の通りである. (1) 関係型出力変数を予測する機械学習のアルゴリズムを開発した.分子の光吸収スペクトルや物性の温度依存性曲線,材料組織の電子顕微鏡画像等,材料研究における関数型出力変数を予測する深層カーネル回帰の手法を開発した(Iwayama et al., J. Chem. Inf. Model. 62, 20, 4837-4851 (2022)). (2) 機能性分子と合成経路を同時に設計するための機械学習アルゴリズムを開発した(Zhang et al., Sci. Technol. Adv. Mater., in press). (3) 任意の化学組成が与えられたときに,安定・準安定状態の結晶構造を予測する機械学習アルゴリズムを開発した(Kusaba et al., Comput. Mater Sci. 211, 111496 (2022), Liu et al., submitted).従来の結晶構造予測では,第一原理エネルギー計算を多数繰り返す必要があり,単位胞内に30個以上の原子を含むような大きな系には適用できなかった.提案したショットガン法は,従来法に比べて,計算負荷が5~10倍以上少なく,予測精度も2~6倍高い. (4) 全原子古典分子動力学法(MD計算)による高分子物性計算を全自動化するソフトウェアRadonPyを開発した(Hayashi et al., npj Comput. Mater. 8, 222 (2022)).RadonPyは,高分子材料の繰り返し単位の化学構造と重合度,温度などの計算条件を入力とし,アモルファスポリマーや高分子溶液などの系に対し,熱物性や光学特性を含むさまざまな物性を自動計算する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
様々な材料系に適用可能なマテリアルズインフォマティクスの体系的方法論とデータ解析ツールが完成しつつある.これらの手法は本グループが開発しているオープンソースソフトウェアXenonPyに実装されている.また,全原子古典分子動力学シミュレーションによる高分子物性計算を完全自動化するPythonオープンソースライブラリRadonPyをリリースした.RadonPyは.モノマーの化学構造や重合度・温度等の計算条件を入力とし,力場パラメータの設定,分子モデリング,平衡・非平衡MDシミュレーションによる構造計算・物性算出,計算のエラー判定,再計算のスケジューリング管理までの全工程を自動化する.現在のバージョンは,熱物性を中心とする15物性の自動計算に対応している.計算対象の系は,アモルファスポリマー,延伸配向したポリマー,共重合ポリマー,高分子溶液系を含む.我々は,3大学・24企業からなる産学連携コンソーシアムを形成し,RadonPyを用いて10 万種類以上の分子骨格を包含する世界初の体系的な高分子物性データベースを開発している. また,実証研究においても顕著な成果が出つつある.準結晶探索の応用では,準結晶を形成する化学組成を高精度で予測できる統計モデルを構築し,アルミニウム三元合金系の全組成空間の仮想スクリーニングを実施した結果,3個の安定準結晶と10個の近似結晶を発見することに成功した(論文投稿).これは機械学習によって予測・発見された初めての準結晶である.また,高分子熱物性の実証研究では,従来の高分子に比べて非常に高い熱伝導率を示す液晶高分子が発見された(論文投稿準備中).今後も様々な材料系に提案手法を適用していき,実証フェーズを加速していく.
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の外部プロジェクトと連携しながら,実証フェーズを加速していく. (1) 本プロジェクトの研究グループは,2019年に始動したJST-CREST熱制御領域「高分子の熱物性マテリアルズインフォマティクス」(代表:東京工業大学 森川淳子教授)に参画している.提案手法を本プロジェクトに投入し,高分子の熱動態の理解と高い熱伝導性を有する新材料の発見を実現する.特に,液晶構造を形成するポリマーを予測・設計する機械学習アルゴリズムを用いて,液晶性ポリマーの材料創成を実現する. (2) 本プロジェクトの研究グループは,2019年に始動した科研費新学術領域「ハイパーマテリアル:補空間が創る新物質科学」(領域代表:東京理科大学 田村隆治 教授)に参画している.準結晶は通常の周期結晶のような並進対称性を持たないが,原子配列に高度な秩序がある物質群である.最初の準結晶の発見からおよそ35年間で100種類以上の準結晶が見つかっている.準結晶の発見は新しい固体構造の概念を確立された.しかしながら,近年は準結晶の発見のペースが著しく鈍化している.我々は,これまでに発見された準結晶,近似結晶,結晶の化学組成リストの機械学習を適用し,準結晶を形成する化学組成を高精度で予測できる統計モデルを構築することに成功している.また,アルミニウム三元合金系の全組成空間の仮想スクリーニングを実施し,3個の安定準結晶と10個の近似結晶を発見することに成功した.現時点において,化学組成から(a)準結晶形成の判別,(b)電気抵抗率,(c)温度係数を予測する三つのモデルを得ることができている.次のステップでは,このモデルの逆問題を解くことで,半導体特性を有する準結晶を形成する化学組成を予測し,世界初となる半導体準結晶の発見を実現したい.
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