研究課題/領域番号 |
19H01149
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分63:環境解析評価およびその関連分野
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
星 正治 広島大学, 平和センター, 名誉教授 (50099090)
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研究分担者 |
坂口 綾 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (00526254)
川野 徳幸 広島大学, 平和センター, 教授 (30304463)
豊田 新 岡山理科大学, 古生物学・年代学研究センター, 教授 (40207650)
藤本 成明 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 准教授 (40243612)
井上 顕 高知大学, 教育研究部医療学系臨床医学部門, 教授 (40469036)
野宗 義博 広島国際大学, 健康科学部, 教授 (50164695)
七條 和子 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 助教 (90136656)
遠藤 暁 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 教授 (90243609)
佐藤 斉 茨城県立医療大学, 保健医療学部, 教授 (90285057)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
42,900千円 (直接経費: 33,000千円、間接経費: 9,900千円)
2022年度: 10,270千円 (直接経費: 7,900千円、間接経費: 2,370千円)
2021年度: 9,360千円 (直接経費: 7,200千円、間接経費: 2,160千円)
2020年度: 9,360千円 (直接経費: 7,200千円、間接経費: 2,160千円)
2019年度: 13,910千円 (直接経費: 10,700千円、間接経費: 3,210千円)
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キーワード | 放射性微粒子 / 内部被ばく / 健康影響 / Mn-56 / セミパラチンスク / 残留放射能 / ラドン / ラット |
研究開始時の研究の概要 |
放射線の人体への危険度(リスク)は、主に広島・長崎の被ばく者の疫学調査から求められてきた。これは主にガンマ線による外部被曝だけを考慮したものであり、内部被曝は含まれていない。特に放射性微粒子による内部被ばくは、本研究グループによる動物実験で20倍以上の放射線障害があることが分かった。そのため①動物に放射性微粒子を吸入させその影響を調べ、②核実験場内の土壌とその微粒子の飛散状況調査し、人々の被ばくの状況を調査し、③新たに被ばく線量を評価し、現地の35万人のデータベースを用いリスク解析を行う。そして放射性微粒子によるリスクを明らかにする。そのリスクが分かれば、放射線障害防止法に取り入れられる。
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研究実績の概要 |
放射線の人体への危険度(リスク)は、放射線の業務従事者や、一般人への被曝の限度を定めるための基準となっている。これは広島・長崎の疫学調査の結果などを用いて、ICRPなどで議論され決められている。そして、国内では放射性同位元素等の規制に関する法律に取り入れられている。しかしながら、このリスクは主にガンマ線などの外部被曝のみが考慮されていて、内部被曝については含まれていない。 そのため、本研究グループは、今まで考慮されていなかった放射性微粒子を使った内部被曝の実験を世界で初めて実施し、その影響が肺などでは20倍以上も大きいことがあることを発見した。そこで放射性微粒子に着目して、①動物実験による放射性微粒子の影響研究、②大気中の微粒子の飛散状況の調査、③約30万人の被曝者データベースを使った放射線のリスク評価からの内部被曝の影響研究等を目的とした。 ①については、2020年度からナザルバエフ大学をカウンターパートとして研究を開始した。しかしながら、これまでコロナウィルスの問題で現地に行けなかったので、照射装置を製作した。現地に行けるようになり次第、実験を開始する。②については、セメイ市やステプノゴルスク市で大気中の微粒子をエアサンプラーで捕集し、Pb-210,Be-7,Cs-137などを測定した。同時に重金属などについても測定した。ステプノゴルスク市はウラン鉱山地帯の中心都市で、近くに露天掘りのウラン鉱山や精錬工場、1-2km四方の広大な廃液の貯水池があるので、それらからの微粒子の飛散の状況を議論したい。③については、線量評価の基礎データを得るために、現地スタッフが被ばくした村々を訪れ、当時の村人の行動などの聞取り調査し、その結果をデータベースに入力した。そして、過去の土壌汚染のデータや当時の空間線量の実測データを集めた。研究協力者との打ち合わせはZoomで4回実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、カザフスタンで実験や調査を実施し、放射線の影響、特に放射性微粒子の影響を総合的に調査研究することである。2020-2021年度はコロナウィルスの世界的な流行により、カザフスタンに入国出来なかった。そのため、その間はメールやZoomなどにより打ち合わせを行い、準備や調査を行った。 それぞれの進捗状況は、①のセメイでの動物実験に関しては、前年度(2020年)にマウスとラットの照射実験を行い無事完了した。2021年度には、ナザルバエフ大学との共同研究を開始するため打ち合わせを行った。これまで、Mn-56の放射性微粒子を使った実験を実施し、1.線量評価方法の開発と測定、2.病理組織の観察による大きな影響の発見、3.DNA/RNAの発現の違いの発見、4.運動量の低下、など目的とした結果を得たので、放射能をSi-31に変更することにした。Si-31はほぼベータ線だけを放出し、より内部被曝の実態を調べる研究ができる。そのため、原子炉での中性子で放射能を生成し、ラットやマウスに放射性微粒子を曝露するための照射装置を新たに制作し、現地の研究協力者に送付した。取扱法などはメールなどで打ち合わせを行った。②の大気中の微粒子の捕集実験については、新たにセメイ市のシャカリム大学での収集を開始した。また、アスタナ市に設置していたエアサンプラーはウラン鉱山地帯のステプノゴルスク市に移動し、捕集したフィルターは日本に送付しPb-210やBe-7を測定した。そのほか、重金属についても測定した。③の被ばく者データベースの解析では、現地スタッフが被ばくした村々を訪れて、当時の生活状況についてアンケート調査を行った。そして、その結果をデータベースに入力し、線量評価を開始した。今後被ばく線量の評価の後、リスク解析を行う。また、それぞれの研究について、学会や論文発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、カザフスタンで実験や調査を実施し、放射線の影響、特に放射性微粒子の影響を調査研究することである。しかし、2021年度までコロナウィルスの流行でカザフスタンに行くことが出来なかったが、2022年度に可能となり、8月に現地に赴いた。それまでは、ネットで打ち合わせを行っていたが、研究協力者と現場で装置を確認し説明し、今後の方針を打ち合わせた。 今後については、①の動物実験では2022年秋にナザルバエフ大学をカウンターパートとして研究を実施する予定であったが、原子炉側では動物照射が初めてで予想外に時間がかかり、準備が冬にさしかかった。カザフの冬はマイナス20度にもなり動物を移動させたりすることが困難で、結果に影響を及ぼす可能性があるため、2023年度に延期した。実験は、ラットに放射性微粒子を曝露させ約2ヶ月間観察を行う。また、その際Mn-56からSi-31に変える。そして、その放射能の違いから作用のメカニズムを考察する。 ②の大気中の埃の収集と測定については、セメイ市とステプノゴルスク市で捕集してきたが、より放射能の発生源に近い、水爆の爆発によるクレーターでできた湖の近くの牧場とアクス村とで収集を開始し、その試料を日本に送り測定している。また弘前大学との共同研究でアクス村の民家などでのラドンの測定を開始した。③の放射線のリスク評価については、聞き取り調査の結果をデータベースに入力し、線量評価を進めている。被曝線量を見積もるために、被ばく当時の空間線量のデータやCs-137など測定結果の収集を行った。現在、被曝線量の評価を進めている。その結果は、30万人の被ばく者データベースに入力し、リスク評価を進める。そのほか、心理学的な影響を調査しリスクへの影響を考察する。また、研究分担者や協力者との情報交換などのため、研究会を開催し今後の方針や実験の詳細について検討する。
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