研究課題/領域番号 |
19H01153
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分63:環境解析評価およびその関連分野
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
松田 祐介 関西学院大学, 生命環境学部, 教授 (30291975)
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研究分担者 |
田中 厚子 琉球大学, 理学部, 助教 (40509999)
原田 尚志 鳥取大学, 工学研究科, 准教授 (50640900)
嶋川 銀河 関西学院大学, 生命環境学部, 助教 (60853885)
米田 広平 関西学院大学, 理工学部, 助教 (10829104)
辻 敬典 京都大学, 生命科学研究科, 助教 (40728268)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
45,240千円 (直接経費: 34,800千円、間接経費: 10,440千円)
2023年度: 7,540千円 (直接経費: 5,800千円、間接経費: 1,740千円)
2022年度: 7,670千円 (直接経費: 5,900千円、間接経費: 1,770千円)
2021年度: 7,540千円 (直接経費: 5,800千円、間接経費: 1,740千円)
2020年度: 9,620千円 (直接経費: 7,400千円、間接経費: 2,220千円)
2019年度: 12,870千円 (直接経費: 9,900千円、間接経費: 2,970千円)
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キーワード | 海洋性珪藻 / 二次葉緑体 / ピレノイド / 一次生産 / 海洋遺伝子ビッグデータ / 光合成 |
研究開始時の研究の概要 |
微細藻である珪藻は、地球全体の光合成による有機物生産量のおよそ20%を担う。珪藻は、二回の共生進化によって、葉緑体を獲得し(二次葉緑体)、この内部には光合成の“主要な場”と考えられるピレノイドと呼ばれるタンパク質塊を持つ。本研究では、珪藻二次葉緑体について、謎の多いピレノイド構成成分を探索し、その正確な位置と働きを決定する。この知見から、珪藻二次葉緑体の働きを立体的な分子モデルであらわす。このモデルから重要と考えられるコア成分の役割を、膨大な海洋遺伝子データを用いて、地球レベルで調べることを目的とする。発展的に、未来環境予測や珪藻を用いた物質生産などの分野に役立つ知見を得ることを目標とする。
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研究実績の概要 |
海洋性珪藻類の葉緑体ピレノイド構造・機能と地球生態系への影響を定量する分子モデルを羽状目Phaeodactylum tricornutum(Pt)および中心目Thalassiosira pseudonana(Tp)を用いて構築した。 ①両珪藻のPyshellに相互作用する因子として6つ程度のタンパク質が質量分析により再現性良く検出された。このうち2つは未知天然変性タンパク質だった。一方、Bestおよびθ型炭酸脱水酵素(CA)の相互作用因子に有意な候補は見いだせていない。葉緑体包膜因子であるι型CAの相互作用タンパク質を新たに探索した結果、6つ程度のタンパク質が再現性良く検出され、このうち1つはやはり天然変性タンパク質であった。光アミノ酸架橋によるピレノイド因子探索では、新奇チャネルタンパクと考えられる因子が見つかった。②新奇チャネルタンパク質はGFPタギングにより葉緑体の一部に局在することが確認された。③CRISPR/Cas9により、TpBest1,2の同時破壊株およびTpPyshellの破壊株を取得した。また、PtBest1およびPtθCA1の破壊株を取得した。PtPyshellの破壊株は現在取得中である。PtθCA1およびTpPyshellの破壊株は、極端に無機炭素への親和性が低い光合成を示し、CCMがほぼ機能しないことが分かった。TpPyshell破壊株は液相分離は維持されるがピレノイドの構造は破壊されていた。PtBest1破壊株も高CO2生育野生株と同レベルの低親和性光合成を示した。④珪藻ピレノイドは中心を貫通するチラコイド膜をもち、Pyshellがその構造を形成する。このチラコイド膜がBestとθCAの働きで、CO2発生装置としてRubiscoにCO2を供給する分子モデルが完成しつつある。⑤Pyshellは世界の海で発現している重要因子であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①二次葉緑体包膜やピレノイドの構成因子から、天然変性タンパク質と考えられる配列が軒並み取得され、その他の発見因子と共にピレノイド構造・機能の分子機構がいよいよ明らかになりつつある。 ②θCAの局在や無機炭素輸送体の詳細を原著論文として発表し、さらに新奇チャネルタンパク質を見出し、その局在も決定しつつある。 ③ゲノム編集によって、TpPyshellの破壊株とPtθCAの破壊株が共にこれまでに報告例のないほど極端に効率の悪い光合成を行うことが明らかとなった。このことから珪藻のピレノイド構造と機能は現在の何倍か高CO2環境でも必要とされる重要なものであることが強く示唆された。 ④相互作用因子の探索が軌道に乗り今後も新たな因子の発見につながる目途が立った。大きな骨格となるPyshell,BestおよびθCAのピレノイド構造・機能維持に関わるモデルはほぼ完成した。 ⑤これら重要ピレノイド因子の海洋メタゲノムデータベースでの解析すでに一部行われ、θCAとPyshellは海洋に広く分布して高発現し、高いグルーバルインパクトを持つ重要因子であることが確実となった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の実験には、引き続き海洋性珪藻二種、P.tricornutumおよびT.pseudonanaを用いる。研究全体を、引き続き以下のサブプロジェクトに分け遂行する。 ①2022年度は改良型近位依存性ビオチン標識法(TurboID法)と質量分析計を用いた葉緑体プロテオミクスが技術的に成熟し、いくつかの重要因子の取得につながった。この標識・分析系を駆使して芋づる式にピレノイド因子のリストを完成させる。 ②リストアップされた候補の遺伝子を取得し、この遺伝子に蛍光タンパク質遺伝子或いは蛍光低分子標識用HALOタグ遺伝子等を融合し、細胞内局在の確認を行う。また、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた免疫TEM観察により、リストアップされた因子の局在を順次詳細に決定し、ピレノイドモデル内に位置情報を組み込んでゆく。 ③破壊と解析が完了したTpPyshell、PtθCAのデータを査読付き原著論文に順次発表する。その他因子についても破壊株の取得・解析を進め、ピレノイドモデル内に機能情報を組み込んでゆく。 ④葉緑体構造・機能・動態モデルを完成し、⑤海洋環境ゲノムデータを用いて、これら因子のグローバル分布を分析、モデルに基づいた機能を分析に挿入してグローバルインパクトの分子レベルでの定量化を行う。
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