研究課題/領域番号 |
19H01156
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分63:環境解析評価およびその関連分野
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
多胡 香奈子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境研究部門, 上級研究員 (20432198)
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研究分担者 |
早津 雅仁 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境研究部門, 再雇用職員 (70283348)
諏訪 裕一 中央大学, 理工学部, 教授 (90154632)
藤谷 拓嗣 中央大学, 理工学部, 助教 (50708617)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
44,980千円 (直接経費: 34,600千円、間接経費: 10,380千円)
2022年度: 11,570千円 (直接経費: 8,900千円、間接経費: 2,670千円)
2021年度: 11,310千円 (直接経費: 8,700千円、間接経費: 2,610千円)
2020年度: 11,440千円 (直接経費: 8,800千円、間接経費: 2,640千円)
2019年度: 10,660千円 (直接経費: 8,200千円、間接経費: 2,460千円)
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キーワード | 硝化菌 / 酸性土壌 / 窒素循環 / 硝化 / 耐酸性 / 比較ゲノム / 一酸化二窒素 / アンモニア酸化細菌 / 完全硝化菌 / 亜硝酸酸化細菌 / 亜硝酸 / アンモニア酸化菌 / 亜硝酸酸化菌 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、酸性土壌から分離した硝化菌を含む複数種の微生物からなる耐酸性硝化微生物コミュニティーの窒素代謝系の特徴と硝化菌がその生育を支える複数種の細菌と共生してコミュニティーを形成し酸性環境で安定的に機能するメカニズムを解析するとともに、土壌模擬実験系を用いて異なる硝化微生物コミュニティーが共存して酸性条件下で高い硝化能を維持し、これらのコミュニティーから排出される中間代謝物が化学反応によりN2Oを生成する「生物反応と化学反応が共役したN2O生成機構」を証明する研究である。
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研究実績の概要 |
昨年度、申請者らが分離した「新規耐酸性アンモニア酸化細菌-亜硝酸酸化細菌コミュニティー」における鍵となる新規な酸性適応型アンモニア酸化菌(GAO100株)を分離し、ドラフトゲノム解析を実施した。本年度は、このGAO100株のゲノム配列を決定しコードされる遺伝情報を解析した。さらに、申請者らが国内土壌から分離したγ-プロテオバクテリアに属す耐酸性アンモニア酸化細菌(Nitrosoglobus terrae)と既知の塩湖や海洋に生息する特にアンモニア酸化細菌(Nitrosococcus)とGAO100株の比較ゲノム解析を行い、機能の推定や進化的な類縁性を調査した。その結果、GAO100はNitrosococcusが保持している浸透圧耐性関係の遺伝子を維持していた。しかしNitrosoglobus terraeはこれらの遺伝子を失っていることからGAO100株はNitrosococcusが陸域に進出してNitrosoglobusと分岐する前の種である可能性が推察された。またNitrosoglobus terraeが失っている脱窒系の遺伝子を一部保持していた。この他、系統分類遺伝子の比較からGAO100株は、Nitrosoglobus terraeと好塩性アンモニア酸化細菌(Nitrosococcus)の中間に位置付けられた。一方、GAO100株は亜硝酸化菌を含む複数の細菌と安定的な凝集体を形成しており、純化過程で不安定になることから当初計画で予定したPVA(ポリビニルアルコール polyvinyl alcohol)多孔質体を用いた微生物コミュニティーとしての単離を試みた。しかしPVA多孔質体に微生物コミュニティーを形成させることは困難であった。GAO100株が生産する細胞外多糖と推定される物質がコミュニティーの安定化に寄与していると推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数種の微生物からなる耐酸性硝化微生物コミュニティーにおいて硝化菌が、その生育を支える複数種の細菌と共に酸性環境で安定的に機能するメカニズムを解明するという目的を達成するために、この微生物コミュニティーの中心となるアンモニア酸化細菌の分離に成功し、これが新規なアンモニア酸化細菌であることを類縁のアンモニア酸化細菌との比較ゲノム解析により明らかにした。申請者は海洋や塩湖にしか生存しないとされていたγ-プロテオバクテリアに属すアンモニア酸化細菌(γ-AOB)が茶園土壌に存在し、酸性環境に適応していることを明らかにした。その後、中国のグループも排水処理中にγ-AOBが存在し機能していることを明らかにした。本年度に発見したアンモニア酸化細菌もγ-AOBに属すことから、これまで考えられていた以上にγ-AOBが陸域に広く分布していることが示唆された。このような酸性環境に適応した新規な耐酸性アンモニア酸化細菌の発見により、酸性環境の硝化とN2O生成機構の解明という本研究の最終目的に大きく前進したといえる。一方、PVA多孔質体にGAO100株を含む微生物コミュニティーを形成させることができなった。排水処理過程において、硝化菌コミュニティーをPVAに形成させると、高い硝化能を示すことが実証され実用化されている。GAO100株はこれらのコミュニティー形成機構とは異なるメカニズムでコミュニティーを形成・安定化していると推定された。これらの成果に基づいてGAO100株を中心とした微生物コミュニティーの形成機構の解析に着手した。 以上により当初計画に従い研究を推進し目的達成に必要な成果を得ることができたので、本研究課題は順調に進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
耐酸性硝化微生物コミュニティーが凝集体を形成し、酸性環境で硝化反応が進行するメカニズムと亜硝酸の動態とN2O生成機構の解明に向けて、このコミュニティーの中心である新規な耐酸性アンモニア酸化細菌(GAO100株)を特定し、ゲノムを解析して詳細な遺伝情報を得ることができた。これらの解析結果から分離したアンモニア酸化細菌のトランスクリプトームなどの解析を行うことが可能になった。したがって今後はGAO100株と対をなして共存している亜硝酸酸化菌(Nitrobacterと推定)の分離とゲノム解析を中心に進めて、両者を中心とした微生物コミュニティーの安定的増殖機構をトランスクリプトーム等により解析するとともに、両者の生育をサポートする夾雑菌の役割に着目して研究を進める。一方、このように複数種の微生物からなるコミュニティーの安定化における細胞外高分子物質の役割と凝集体の形成機構の解析のための実験系の構築を試みる。並行して、この微生物コミュニティーの形成過程や崩壊過程におけるN2O発生と亜硝酸の動態の関係を解析する。
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