研究課題/領域番号 |
19H01393
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分04030:文化人類学および民俗学関連
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
上水流 久彦 県立広島大学, 公私立大学の部局等(広島キャンパス), 教授 (50364104)
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研究分担者 |
中村 八重 東亜大学, 人間科学部, 客員研究員 (00769440)
パイチャゼ スヴェトラナ 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (10552664)
飯高 伸五 高知県立大学, 文化学部, 准教授 (10612567)
永吉 守 久留米大学, 付置研究所, 研究員 (20590566)
楊 小平 東亜大学, 人間科学部, 客員研究員 (30736260)
藤野 陽平 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (50513264)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2022年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2021年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2020年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2019年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
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キーワード | 植民地主義 / 遺産 / 歴史認識 / 建築物 / 大日本帝国 / 遺産化 / 記憶 / 建築様式 / 日本認識 |
研究開始時の研究の概要 |
日本の旧外地(台湾、朝鮮半島、南洋群島、樺太、満州等)で日本統治を直接経験した世代がほぼ消滅するなか、近年、一部の地域では植民 地建築物がカフェやレストランに変貌するなど、日本統治期の遺産の意味づけが変化している。したがって、これらの地域の人々が、日本の植民地遺産といかに対峙し、歴史認識のなかに組み込んでいったのかは植民地支配のその後を考える重要な課題であり、この課題について現地調査も行い明らかにする。具体的には戦後直後「負の遺産」とされる傾向にあった日本統治期の建築物や産業施設(政庁や病院、炭鉱跡など)を対象に、人々の感情の変化や遺産化した過程、レストラン等消費文化化した理由を明らかにする。
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研究実績の概要 |
主に建築物のライフヒストリーの検討という観点から、①大日本帝国期(以下、帝国期)に建築物が建設される状況、背景の整理、②帝国期の建築物の利活用の変動要因の検討、③帝国期の建築物の現状の把握の3点に注力して研究を行っている。③に関してだが、日本統治期の建築物が第二次世界大戦後どのような利活用をされて来たかなどを主に検討してきた。中国東北部の建築物は銀行であった建築物は銀行として、ホテルであった建築物はホテルとして利用されるなど、その用途を変えずに活用されてきた。その一方で、他の地域では官公庁や教育施設などが戦後そのまま利用されるケースが一定程度あるものの、現在まで継続的に同じ機能をもった施設として活用されることは少ない。特に台湾では、ここ20年ほどで観光利用が促進され、カフェやレストランなどへの転用が多く見られる。統治期の歴史を記憶するといよりも、雰囲気ある場所としての活用が促進されている。サハリンでは工場は工場として現在も稼働しているものもあれば、廃墟となっているものも多い。 帝国期の記憶という点では、宗教施設や教育施設は観光地化することなく、そのまま活用される傾向が研究対象地域全般に見られるものの、日本統治期の明示という点では、韓国と台湾・中国ではかなり異なる。韓国では統治期の歴史と戦後の歴史を切り離すが、台湾等では統治期の歴史と戦後の歴史を継続して考える傾向にあった。ただし、中国では日本侵略という点が重視され、台湾では近代教育の証という点が重視されていた。 帝国期の建築物は、現在、破壊・放置の「外部化」、負の歴史としてその面を強調する「内外化」、近代化などをプラス面を強調する「内部化」、日本統治の記憶を忘却し・観光活用が進む「溶解化(脱日本化)」、逆に日本統治期の建築物であることを利用し観光地化する「遊具化」に分類できる。現時点ではこの分類について一定程度妥当性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルスのため国外での現地調査が十分にできない状況は継続している。そのため、特に旧南洋群島や中国東北部、サハリン等では、現地調査が難しく、史料の収集やその分析に注力した。この作業を通じて、帝国期の建築物の歴史的展開などについて整理を行うことができた。 一部オンラインでの調査も実施したが、建築物を目の前にしての調査ではなく、分析の深さという点では課題が多いのも事実である。 国外の現地調査では韓国や台湾で政治的変化や観光地化との関連から、建築物の歴史的変遷について、インタビューも含め調査を行うことができ、日本との関係という観点から建築物の扱いが変わる様相を捉えることができた。国内調査では北海道の近代遺産や九州北部の鉱山関連遺産、さらには教会建築物について集中的に調査を実施し、国外の統治期の建築物との比較するためのデータを収集することができた。これらの作業を通じて遅れは最小限のものにとどめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルスの終息まではいたっておらず、国外の現地調査について十分にできない状況は一定程度続くものと予見される。そのため史資料を通じた分析の強化を行う。さらに国外の建築物との比較という観点から国内での現地調査にも注力していく。中国以外は徐々に国外の現地調査が可能にはなると考えており、状況に応じて国外調査も積極的に行っていく。サハリンは経費面で文献調査やオンラインの調査が中心になると思われる。 研究内容としては、医療施設、教育施設、宗教施設など、建築物の用途の特性によって歴史的変遷や建築物の観光面の利用に違いがあるのか、政治的影響をどの程度受けるのか等を探っていきたい。 国内については九州の教会など中心的に調査し、北海道との違いなどについて比較研究を行う。沖縄については離島の近代化遺産を検討することでモノがもつエージェンシーを検討する材料としたい。韓国では、ソウル市内で植民地期建築が博物館や公園などの公共の目的として利用されている事例を中心に研究を行う。旧南洋群島についてはパラオにおける観光利用の観点から調査を実施する。台湾については、ダークツーリズムという観点から現在の植民地遺産の観光化について検討を加える。中国については学校関連の史資料を中心に収集を行う。このほか、「文物」に指定されていない建築、つまり行政的保存に含まれていない、「忘れられた」「浄化」された建築について調査を実施する。 理論的にはAnn StolerのImperial Debris:On Ruins and Ruination (2013)などを手がかりに検討を進める。
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