研究課題/領域番号 |
19H03029
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40030:水圏生産科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩田 容子 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (60431342)
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研究分担者 |
入江 貴博 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (30549332)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
15,600千円 (直接経費: 12,000千円、間接経費: 3,600千円)
2022年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2021年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2020年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2019年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
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キーワード | 海洋生態学 / 資源生態学 / イカ / 生活史 / 表現型可塑性 |
研究開始時の研究の概要 |
海洋環境の変動に対し海洋生物の生活史が応答するメカニズムを理解することは、水産資源を適切に管理し持続的に利用する上で不可欠である。水産重要種であるケンサキイカは熱帯から温帯にかけて広く分布し、互いに交流のある複数の地域個体群から形成されると考えられるが、種内で顕著な形態的変異が見られる。これは可塑的な表現型変異であると考えられるが、変異の地域的・季節的出現状況や経験環境との関係は明らかとなっていない。本申請課題は、東シナ海から日本沿岸の広域にわたる調査により地域個体群間の交流、流れによる移送、経験する海洋環境と表現型変異との関係を明らかにし、ケンサキイカ資源の環境応答を解明することをめざす。
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研究実績の概要 |
海洋環境の変動に対し海洋生物の生活史が応答するメカニズムを理解することは、水産資源を適切に管理し持続的に利用する上で不可欠である。水産重要種であるケンサキイカは熱帯から温帯にかけて広く分布し、互いに交流のある複数の地域個体群から形成されると考えられるが、種内で顕著な形態的変異が見られる。これは可塑的な表現型変異であると考えられるが、変異の地域的・季節的出現状況や経験環境との関係は明らかとなっていない。本課題は、東シナ海から日本沿岸の広域にわたる調査により地域個体群間の交流、流れによる移送、経験する海洋環境と表現型変異との関係を明らかにし、ケンサキイカ資源の環境応答を解明することをめざしている。 2021年度は年次計画に基づき、①遺伝子解析による個体群構造の把握、②生活史特性の地域個体群比較、③平衡石による成長履歴解析、④微量元素分析による経験環境推定、⑤温帯から亜寒帯に生息する近縁種ヤリイカにおける調査とケンサキイカとの比較項目に関し、調査・実験を行った。ケンサキイカは2020年度までに収集した台湾・沖縄・種子島・対馬・神奈川・宮城より漁獲されたものを用いた。ヤリイカは2020-21年度に宮城にて漁獲されたものを用いた。集団中の性比、成熟個体の割合、成熟個体のサイズ頻度分布、生殖腺重量や成熟齢、孕卵数、卵サイズ等の成熟特性を測定した結果、地域や季節によりそれらに大きな違いが見られた。微量元素分析により孵化場所の環境を推定したところ、ケンサキイカは台湾以南がsource、日本がsinkとなるメタ個体群の構造を持っていることを明らかにした。また、ヤリイカの平衡石を用いた分析により、雄の繁殖戦術決定には孵化日が強く影響していることが明らかとなり、胚発生・孵化直後の環境条件が重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①遺伝子解析による個体群構造の把握:2019年度にミトコンドリアDNA CO1領域のシーケンスを行なったところ、種子島を除く地域間で遺伝的に異ならないことが明らかとなった。種子島については2021年度に採集した個体を分析し、2019年度と同様に異なる集団であることを確認した。本成果は2022年4月に国際学会で発表し、投稿論文を執筆中である。 ②生活史特性の地域個体群比較、③平衡石による成長履歴解析:雄の成熟サイズ(外套長・体重)、生殖腺重量、成長と成熟へのエネルギー投資配分、平衡石解析による日齢・孵化日・過去の成長率、雄二型(コンソート雄/スニーカー雄)の個体群中の割合などを季節・地域個体群間で比較することにより、環境条件が生活史特性に強く影響することが明らかにした。本成果は、国際学術誌に論文公表済みである。 ④微量元素分析による経験環境推定:2020年度にレーザーアブレーションICP-MSを用いて約400個体の平衡石の微量元素分析を行った。2021年度にデータ解析を行った結果、Mg, Ba, Bが採集地点を区分するために有効な元素であること、孵化直後を表す平衡石核の値は、対馬と台湾で漁獲された個体で大きく重複していたため両集団の孵化場所の環境は同様であったことが示された。また、水温と負の相関が見られるSr/Caにより、対馬で漁獲された個体の多くが台湾沿岸と等しい、もしくは更に温暖な海域で孵化していたことが明らかとなった。以上より、ケンサキイカは台湾以南がsource、日本がsinkとなるメタ個体群の構造を持っていることを明らかにした。 ⑤近縁種ヤリイカにおける調査:宮城県で漁獲されたヤリイカの生活史特性を調べたところ、集団の中で孵化時期が早い雄はコンソート雄に、遅い雄はスニーカー雄になるという繁殖戦術への孵化日の影響が初めて明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
①遺伝子解析による個体群構造の把握:分析やデータ解析は完了しており、今年度中の国際学術雑誌への掲載を目指し、論文執筆を進めている。 ②生活史特性の地域個体群比較、③平衡石による成長履歴解析:本項目は2020年度までに予定していた分析はすでに完了しており、環境条件が雌の生活史特性へ与える影響に関して2020年に1編、雄の生活史特性に与える影響に関して2021年に1編の論文を国際学術雑誌に発表している。本年度は、雄の繁殖戦術の割合と性比の関係から、生活史戦略に関する論文を執筆し、投稿予定である。 ④微量元素分析による経験環境推定:すでに必要な分析は完了していることから、さらにデータ解析を進め、2022年度中に国際学術雑誌に論文を投稿することを目指す。 ⑤近縁種ヤリイカにおける調査:2021年度に行なった調査により、雄の繁殖戦術への孵化日の影響が明らかになったことから、この点に関して更なる調査を進める。まず、孵化日の影響は1年分の標本でしか確認できていないため、2022年度にも継続してサンプリングと分析を行い、毎年同様の傾向が見られるのか、年間での環境の違いが繁殖戦術間での孵化日の違いにどのように影響するのかなどを調べる予定である。また雄の繁殖戦術決定に孵化日の影響が強くみられたことから、胚発生時期・孵化直後の物理的環境が強く影響している可能性が示唆された。そこで人工授精実験により親の表現型・胚発生期間の環境条件(水温・日長)を操作し、孵化時のDNAメチル化による遺伝子発現調節が生じている可能性を検証することを検討している。
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