研究課題
基盤研究(B)
高い光合成能力を持つイネ品種は、将来の世界の食料需要の増加を賄うための有望な戦略と期待される。しかし、光合成能力が高い品種は一般にその水利用(蒸散)も大きく、水消費の増加が懸念される。本研究では、以下の3点を解明することを目的とする。(1) 高い光合成能力を持つイネの蒸散や光合成は、生育期間を通してどのように変化し、水利用効率(収量/蒸散)にどのような影響を与えるのか?(2) 今後予想される大気環境(気温やCO2濃度)の変化は、高い光合成能力を持つ品種の蒸散や水利用効率にどのような影響を与えるのか?(3) 高い光合成能力を持つ品種の蒸散や水利用効率は、どのような遺伝子に支配されているのか?
慣行的に栽培される水稲品種であるコシヒカリと高い光合成能力を持つ水稲品種であるタカナリやオオナリに着目し、それらの生理特性の相違が群落全体の水利用に及ぼす影響を観測により明らかにした。タカナリやオオナリは、コシヒカリと比べて個葉・群落の両スケールで高い光合成を発揮した。タカナリやオオナリの高い群落光合成量と蒸散量は、個葉レベルでの高い光合成能力、葉内CO2輸送能力、気孔開度に依存すると考えられ、それらを再現する水田生態系モデルが構築された。観測結果では、フェノロジーの品種間差が生育期間全体の光合成量に及ぼす影響も無視できず、今後のモデル開発に有用な知見を得た。
現在および将来の作物需要を支える上で、高い光合成能力は、水稲のような主要な作物に必要とされる形質である。一方で、光合成特性は、作物群落の水利用(蒸発散)とも密接に関わっているため、作物が高い光合成を発揮することで、どの程度、水需要に対する影響があるのかを把握する必要がある。本研究では、光合成に比べて蒸発散の品種間差は小さい結果を示した。観測と生態系モデルの両者によるアプローチにより、多様な形質を持つ水稲や他の作物に対しても同様の評価を行うための指針となる。
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