研究課題
基盤研究(B)
本研究は、物理化学ストレスが誘発する治療用モノクローナル抗体の凝集化のメカニズム解明と予測理論構築を目的とし、(A)酸ストレスが誘発する劣化抗体の局所的構造変化の部位の特定、(B)酸ストレスが誘発する劣化抗体のドメインの空間的変位の定量、(C)劣化抗体が形成するマイクロメータ・スケールの凝集体のフラクタル性の判定、(D)異なる物理化学ストレス・異なる可変領域アミノ酸配列の依存性の評価、の4項目を実施する。
本研究は、物理化学ストレスが誘発する治療用抗体の凝集化メカニズムの解明と凝集化予測理論の構築を目的とした。その結果、酸ストレスが誘発する劣化抗体の局所的構造変化部位の特定に成功し、C末端のわずかなコンホメーション変化に伴う疎水性コアの露出が構造劣化抗体の共通のサインであることを明らかにした。また、劣化抗体のドメインの空間的変位を定量し、pH 2ではCH3ドメインのホモ二量体は解離して天然様の四次構造が崩れた状態となることを明らかにした。さらに、劣化抗体が形成するマイクロメータ・スケールの凝集体の無乾燥無染色計測を行い、ナノメータ・スケール凝集体と同次元のフラクタル性が存在することを確認した。
本研究で蓄積された治療用抗体の凝集化メカニズムに関する知見は、凝集化予測技術や防止技術の基盤となる。バイオ医薬品の製造管理におけるknowledge-basedからscience-basedへの展開を加速し、治療用抗体の有効性と安全性に関するリスク管理の高度化に寄与することが期待される。また、得られた知見以外にも、本研究で採用した多角的アプローチは、動的な生体高分子の構造状態解析、液中試料の無乾燥・無染色高解像度計測、マルチスケールコロイド科学現象の解明など、関連分野への学術的波及が期待される。
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