研究課題/領域番号 |
19H04029
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分59040:栄養学および健康科学関連
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
山嶋 哲盛 金沢大学, 医学系, 協力研究員 (60135077)
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研究分担者 |
及川 伸二 三重大学, 医学系研究科, 准教授 (10277006)
山下 竜也 金沢大学, 先進予防医学研究センター, 准教授 (30334783)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,030千円 (直接経費: 13,100千円、間接経費: 3,930千円)
2023年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2022年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2021年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2020年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2019年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
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キーワード | サラダ油 / ヒドロキシノネナール / 生活習慣病 / 細胞死 / リソソーム / 非アルコール性脂肪肝炎 / ALDH2 / Alda-1 / カテプシン / Hsp70.1 / カルパイン / ランゲルハンス島 / β細胞 / μ-カルパイン / GPR109A / ペルオキシゾーム / ニホンザル / 視床下部 / 肝臓 / 膵臓 / アルツハイマー病 / 非アルコール性脂肪性肝炎 / 2型糖尿病 / カルパインーカテプシン仮説 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、世界的に様々な疾患モデルで追試されて来た研究代表者提唱の「カルパイン-カテプシン仮説」に基づき、オメガ6系の食用油を多量に摂るヒトに好発するアルツハイマー病や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)及び2型糖尿病などの病因を、ヒドロキシノネナール(HNE)などの過酸化脂質に着目して究明する。すなわち、『酸化損傷(カルボニル化)とカルパイン切断がもたらすHsp70.1の異常に起因するリソソーム膜の破綻』をサルモデルで検証し、生活習慣病の根本原因を見直す。
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研究実績の概要 |
従来、生活習慣病の発症に関わる原因物質として、ヒドロキシノネナール(HNE)という「食用油が含有するリノール酸に由来する過酸化脂質」に着目し研究を行ってきた。令和4年度は、HNEの代謝酵素であるアルデヒド・デヒドロゲナーゼ2(ALDH2)を活性化するAlda-1を用いて、HNEが惹起した非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に類似した肝細胞変性の抑制効果について検索した。すなわち、ω6系の多価不飽和脂肪酸の過酸化物であるHNEが、肝細胞内のリソソーム膜を損傷させることで漏出したカテプシンが細胞死を引き起こすことをin vivo / in vitroの系で証明した。 その結果、①無治療群の肝組織には脂肪滴が沈着し、肝細胞の細胞質にHNEの沈着がみられた。免疫蛍光染色では、細胞質内にLAMP2とカテプシンBが拡散していた。電顕による観察ではリソソームの膜が断裂し、内容物が放出されている所見がみられ、この所見と一致した。ミトコンドリアは円形に変形し極性を失い、クリスタが消失し内部に結晶物がみられた。粗面小胞体は著明な変性を示し、膜の一部は異常なミトコンドリアを取り囲み、オートファゴソームを形成していた。グリコーゲン顆粒も減少し、肝細胞の変性が推定された。しかし、Alda-1を腹腔内投与したNASHモデルでは、HNEの沈着・リソソーム膜の破壊・細胞内小器官の変性・肝細胞変性は有意に抑制されていた。②培養細胞においても同様の所見が観察され、Alda-1を付加することでHNEによる細胞死が有意に抑制されていた。 まとめ:HNEは生体肝組織と培養肝細胞においてリソソームの膜を損傷し、細胞内小器官のみならず、肝細胞自体の変性と壊死を惹起していた。ALDH2のアゴニストとしてHNEをスカベンジし得るAlda-1によってこの細胞変性は有意に阻害された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルツハイマー病患者の血清中のHNE濃度は20μmol/Lと報告されているので、この濃度を再現するため週1回、5mgのHNEを6ヶ月間にわたり静脈内注射した。体重が5-8Kgの若年ザル7頭を用い、総量120mgの注射を終了した半年後の時点で脳と肝臓、膵臓を組織学的に調べると、程度の差こそあれ、全例において海馬の神経細胞死と肝細胞の壊死およびβ細胞の空胞変性がみられた。 採血では、AST・ALT・γGTPの上昇がみられた。しかも、肝臓の変化が最も早期にしかも激しく起きており、肝臓の異常が脳や膵臓に悪影響を与えている可能性がある。また、膵臓のβ細胞の変性が激しいので、脳のインスリン・シグナルに障害が起きた可能性もある。即ち、脳と肝臓、膵臓の間には細胞死に関わる臓器連関があることが推定された。以上の実験結果に基づき、HNEの細胞毒性に関して以下の3点が明らかになった。すなわち、(1)HNEによってシャペロン機能とリソソーム膜の安定化作用を持つHsp70.1にカルボニル化が生じると、Hsp70.1はカルパインによって切断され易くなる。その結果、(2)リソソーム膜の安定性が崩れカテプシンが放出されることが脳や肝臓・膵臓に細胞死を惹起する。最終的に、(3)アルツハイマー病を始め2型糖尿病や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の発症に至ると推定された。論文は( Front Mol Biosci.9:2023, Nutrients.15:609, 15:1904. 2023a,b)の3篇を発表した。 令和5年度には、上記成果をさらに発展させ、HNEがもたらすHsp70.1の異常と2次的に起きるリソソームの破裂機序について分子レベルの検索を行う。同時に、臓器連関を究明するためにミトコンドリア機能のPET計測を行う。以上より、上記生活習慣病の病態解明と画期的な治療法の開発を行う。
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今後の研究の推進方策 |
生活習慣病の発症におけるサラダ油成分のリスクに関して、HNEの注射後半年目のサル組織を調べた上記研究の成果を発展させ、令和5年度の研究ではHNE投与後1年までの長期追跡研究を行い、以下の5点を明らかにする。1)総量120mgのHNEを投与したサルは、投与後5年間に、脳・肝臓・膵臓の各臓器がいかなる形態学・機能的・分子レベルの変化を示すか?2)ことに、脳は脳萎縮を呈し、個体は認知機能の低下を示すか?、将来的に肝病変は肝がんを合併するか?、膵臓病変は糖尿病へと進展するか?3)5年間に各臓器のミトコンドリア障害とHNEが修飾する分子の異常や毒性がPETスキャン上、どのような臓器相関として発現するのか?4)各臓器に生じる細胞死や固有の病変がHNEの阻害剤であるALDH2(アルデヒド脱水素酵素)を含有する酢酸菌や酵母の投与で改善されるか?5)上記の点については、ALDH含有酵母・酢酸菌サプリを用いてヒトを対象に採血データや肝生検材料を用いた検索も行う。 さらに、NASHにおける肝がんの発生メカニズムも検索する。すなわち、ベタインホモシステイン-S-メチルトランスフェラーゼ(BHMT)の酸化損傷による切断を介した機能低下が細胞内ホモシステインの蓄積を誘導することが示唆される。このホモシステインは小胞体ストレスを誘導し、これが肝細胞がんの発症にも関与することが報告されている。さらに、BHMTの機能を欠損させたBHMTノックアウトマウスでは、肝臓への脂肪沈着が生じ、肝癌を発症することが報告されている。これらの結果は、HNEによるBMHTのカルボニル化がNASHにおける脂肪沈着のみならず肝発癌に関わっている可能性を示唆している。そこで今後は、HNEがNASHにおける脂肪沈着や肝発癌の原因物質であることを証明すると同時に、発癌の分子機序をBMHTのカルボニル化に焦点を当てて究明する。
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