研究課題
基盤研究(B)
都市樹木は、樹冠による被陰や蒸散による冷却効果、大気汚染物質の捕捉・二酸化炭素吸収などにより都市環境を改善する。樹木活性の維持には光合成と蒸散を調節する気孔開閉特性が鍵となるが、樹種によって大きな差がある。この応答性の変異が生じる生理学的機構を明らかにし、都市樹木の樹冠形成と光合成生産を最適化するために、気孔応答の調節因子の一つである「アクアポリン」について、分子レベルから実際の植栽木レベルまでのスケールの実験的解析を実施する。モデル植物による解析と実際の街路環境との関係性を明らかにするための野外実験を実施して、気孔応答調節の生理学的・遺伝学的メカニズムを解明する。
(1)都市樹木の光合成・気孔応答調査 交通量は経済状況を反映することに着目し、窒素酸化物の濃度がCOVID19による経済の停滞を反映しているかどうか、またその変化が樹木の気候応答や光合成機能に関係があるかを解析した。COVID19の影響を受けた2020年と2021年は、2019以前のトレンドから予想されるよりも低い窒素酸化物濃度であり、経済の停滞を反映していると考えられた。また、炭素安定同位体比の解析により、ヒラドツツジについては、2020年と2021年は、それまでの年度に比べると水利用効率が低い、すなわちストレスが少ない状態であったことが示唆され、窒素酸化物濃度が低いことが貢献している可能性が示された。(2)ストレス負荷実験による気孔応答調査 高木のイチョウへの過湿ストレス負荷実験を実施した。2週間にわたって高湿度負荷を与え、その後1週間の回復期間を設定した。その結果、高湿度負荷がかかっている期間には気孔開度の減少や光合成速度の低下はほとんど見られなかったが、その後の回復期間に、気孔が十分に開かないこと、また気孔の応答速度が低下していることが明らかになった。さらに遺伝子解析を行ったところ、回復期間にストレス関連の遺伝子が多く抽出されたことから、高湿度で馴化した後の低湿度環境がストレスとなる可能性が示された。(3)気孔応答の鍵となる可能性があるアクアポリンのノックアウト変異体の光合成応答 水透過能力があることが確認されたシロイヌナズナの液胞膜アクアポリンAtTIP2;2ノックアウト変異体(tip2;2変異体)の種子を栽培して実験を行う予定であったが、グロースチャンバの故障により栽培が遅れ、実験を計画通り実施することができなかった。
3: やや遅れている
当初計画で実施する予定であった次の3種の研究、(1)気孔応答データベース作成のための屋外実測、(2)都市樹木へのストレス負荷実験については計画通りに実施できたが、(3)モデル植物へのストレス負荷実験については、計画通り実施することができなかった。。(1)の気孔応答データベース実測の研究は、2019年度、2020年度、2021年度からの継続である。2022年度は、これまで得られたデータの解析を主に行った。炭素安定同位体比の解析により、2019年度までと、COVID19の影響を受けた2020年度および2021年度とでは、ヒラドツツジが受けるストレスに差があることが明らかになった。(2)のストレス負荷実験においては、湿度の増加そのものよりも、高湿度に純化した後の低湿度が強いストレスになること、またその場合はストレス関連の遺伝子発現が増加することが、イチョウにおいて初めて明らかになった。(3)モデル植物へのストレス負荷実験については、グロースチャンバの故障により、シロイヌナズナのAtTIP2;2ノックアウト変異体の栽培が遅れ、実験を計画通り実施することができなかった。
研究期間の延長が認められたため、2023年度中に、2022年度に計画通り実施できなかったAtTIP2;2ノックアウトの栽培実験およびストレス負荷実験を行い、ストレス応答に対するAtTIP2;2の役割を明らかにする。さらに、水透過活性があることが確認されたAtTIP2;2について、過剰発現体を、モデル樹木であるポプラで作成し、ストレス負荷実験を行う。これらの研究により、ストレスがアクアポリン変動を通して気孔応答や光合成にどのように関与しているのか、その機構を解明する。
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