研究課題/領域番号 |
19H05465
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研究種目 |
特別推進研究
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金光 義彦 京都大学, 化学研究所, 教授 (30185954)
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研究分担者 |
廣理 英基 京都大学, 化学研究所, 准教授 (00512469)
田原 弘量 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (20765276)
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研究期間 (年度) |
2019-04-23 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
558,090千円 (直接経費: 429,300千円、間接経費: 128,790千円)
2023年度: 34,450千円 (直接経費: 26,500千円、間接経費: 7,950千円)
2022年度: 38,350千円 (直接経費: 29,500千円、間接経費: 8,850千円)
2021年度: 238,420千円 (直接経費: 183,400千円、間接経費: 55,020千円)
2020年度: 183,950千円 (直接経費: 141,500千円、間接経費: 42,450千円)
2019年度: 62,920千円 (直接経費: 48,400千円、間接経費: 14,520千円)
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キーワード | 高次高調波発生 / 半導体 / 半導体ナノ構造 / 非線形光学 / 高強度テラヘルツ / ナノ構造 / テラヘルツ分光 / 強電場非線形光学 / ナノ構造物質 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、特異な電子状態を持つ固体結晶や構造制御したナノ物質・原子層物質を作製できる物質科学と最先端の高強度レーザー技術を融合し、強電場光科学の深化と応用展開を図ることを目指す。空間・エネルギー的に電子状態を制御したナノ物質とレーザーパルス電場により電子の運動や光学遷移を操作し、高次高調波発生などの強電場下で起こる新規な現象の探求と機構解明を行い、強電場光科学という新たな物質光科学分野の創成に挑戦する。
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研究実績の概要 |
本研究では、特色ある電子状態を持つ固体結晶やユニークなナノ物質を創製できる物質科学と最先端の高強度レーザー技術を融合し、強電場光科学の深化と応用展開を図ることを目指して研究を推進している。サイズ制御された半導体ナノ粒子を用いることでバンド内遷移を操作し、非線形キャリア励起や高調波強度への影響を直接実験的に調べた。ナノ粒子のサイズの増加とともに、励起体積当たりの高調波発生効率と励起キャリア密度が増加することを見出し、バンド内遷移の操作により発生効率が100倍程度増大することを発見した。この増幅は、レーザー照射中に生じるバンド間の多光子吸収過程と生成された電子のレーザー電場による加速運動が同時に起こることにより生じることを明らかにした。また、励起光の偏光(楕円率)がもたらす高調波の発生過程への影響を系統的に調べるために、半導体GaAsを対象とした高次高調波発生の実験を推進した。励起光楕円率が高調波の発生効率や偏光状態に影響を与えることが分った。さらに位相ロックパルス分光では、光パルス照射中の電子の量子コヒーレント応答を計測した。コロイド半導体ナノ粒子の表面を覆うリガンドを置換してナノ粒子間の結合距離を制御することで、隣接ナノ粒子間の協力効果によって非線形光学応答が増大することを明らかにした。新たな二次元ナノ物質である二次元層状ハライドペロブスカイトの室温における励起子スピン輸送が明らかにした。フェムト秒レーザーを用いた偏光分解ポンプ・プローブ顕微分光測定系を開発し、二次元励起子スピンの特異な空間パターン形成と超高速な輸送が室温で生じることを発見した。また、超伝導マグネットを用いたテラヘルツ分光装置を用いて、時空間対称性が破れた超格子ナノ構造をもつ超伝導体における非相反現象を研究した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
高次高調波発生と光電場パルスの位相との関係を明らかにするために、キャリアエンベロープ位相が固定された中赤外パルス光源の開発を行った。数時間に渡って数100アト秒の位相の安定度を保つことを確認した。開発した中赤外光源を半導体ナノ粒子に照射することにより、非線形キャリア励起の高調波強度への影響を直接実験的に調べ、バンド内遷移の操作により高調波発生効率の制御に世界で初めて成功した。開発したレーザーの光電場によって、高次高調波の特性を制御し、光源利用の可能性や固体電子状態の新規な分光手法としての可能性を追求した。その一つとして、代表的直接遷移型半導体であるGaAsを舞台とした高次高調波発生について偏光に着目した研究を推進した。励起光の電場強度に依存した摂動-非摂動領域の移り変わりが、発生する高調波の偏光状態に大きな異常をもたらすことを明らかにした。また半導体だけでなく、超伝導体や磁性体における非線形・非相反現象をテラヘルツ領域に拡張することを目指し、超伝導マグネットを用いたテラヘルツ分光装置を開発した。さらに、物質内部でテラヘルツ磁場強度を数100倍に増強するための金属メタマテリアル構造を考案し、反強磁性体中のスピンの非線形な応答を観測した。光電場に追従した電子応答をとらえる位相ロックパルス分光では、ナノ粒子における多電子量子状態のコヒーレント応答を観測し、ナノ粒子間距離制御によって非線形コヒーレント応答の集団協力効果を明らかにした。また、サブピコ秒・サブマイクロメートルの時空間分解能をもち、高精度に偏光回転角を測定できる偏光分解ポンプ・プローブ顕微分光測定系を開発することにより、二次元励起子スピンの特異な時空間ダイナミクスを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的を達成するために、これまでと同様に今後も物質科学と高強度レーザー技術を融合し、強電場光科学の深化と応用展開を図ることを目指して強力に研究を推進していく。GaAsで発見した高次高調波の偏光特性が、物質によらない普遍的な現象であるのか、あるは物質パラメータに依存した振る舞いを示すのかなどを明らかにするため、より広い物質群を対象に高調波の偏光状態に着目した実験を行っていく。また、高強度テラヘルツ電場や磁場で物質中の電子やスピンの運動を操作することにより、高次高調波発生などの極限非線形光学現象の制御とともに理解の深化を目指す。ナノ物質の非線形光学特性について内部の量子過程に起因したメカニズムを明らかにしてきたが、ナノ物質の集団的構造を制御することで、この非線形光学特性をさらに強めることができると期待される。ナノスケール物質を規則的に配列させたナノ超構造体を用いることで、集団配列構造がもたらす強電場非線形効果を明らかにする。高次高調波発生の実験ではこれまで測定してきた中赤外領域の光とともに、今後はさらに、テラヘルツ領域での非線形現象へ実験を拡張する。時間・空間対称性が破れた構造によって非相反応答を示す超伝導体に着目し、超伝導マグネットを組み込んだテラヘルツ分光系を用いて、極低温かつ磁場・電流印加下での超伝導応答を測定する。また、磁気転移温度が低温で発現する単原子層磁性物質におけるスピン応答や非線形光学応答を観測するため、低温下での分光測定系を構築する。二次元ナノ物質では結晶対称性がその電子・光学特性に大きく影響し新奇な現象が発現する。今後は、大きなスピン軌道相互作用と空間反転対称性の破れに起因して特異なスピン分裂状態を示す物質に着目し、偏光分解ポンプ・プローブ顕微分光手法を駆使して光の偏光状態制御による新たな二次元光スピン物性の解明と機能開拓を行う。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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