研究課題
特別推進研究
生殖組織特異的小分子RNAであるpiRNAはトランスポゾンの利己的転移を抑制することにより生殖ゲノムをDNA 損傷から守る。piRNAの機能欠失は生殖組織の発生・分化阻害、卵子・精子の形成不全、ひいては不妊を引き起こす。piRNAの発見以降、piRNA機構の動作原理を解明する研究は国内外で精力的に行われているが、全容解明には至っていない。そこで本研究ではこれまでに培った知識や手法、発想などを十分に生かした研究を展開することによってpiRNA研究の集大成に挑む。本研究の成果は、piRNA機構の統合的理解のみならず、生殖システムの包括的理解、自己・非自己の識別分子機構の理解、ひいては生殖医療へと繋がる。
[RP-1]ヒト無精子病で見つかったArmi変異と同等のショウジョウバエArmiを解析したところpiRNA生合成因子Shuとの解離が困難になり、piRNA生合成に負の影響を及ぼすことが見出された(論文執筆中)。Daed-Armiの結合にはDaedのeCCドメインとSAM ドメインが独立して関わること、DaedのeCCドメインはArmiのミトコンドリアへの係留に、SAM ドメインはZucによるpiRNAの長さの規定に重要な役割を担うことが分かった(論文執筆中)。生殖細胞ではpiRNAはdual-strand piRNAクラスタからRhino依存的に生成されるが、その選択に関する知見は乏しかった。この問題を解決するために、通常はdual-strand piRNAクラスタやRhinoを発現しないOSCにRhinoを発現させChIP解析などを行ったところ、dual-strand piRNAクラスタ選択に重要な役割を担うRhino上流因子を同定することができた(論文改訂中)。[RP-2] piRNA生合成因子VasaのRNA結合と自己会合の両者がVasa bodyの形成に必須であること、また、VasaはpiRNAの前駆体となるトランスポゾン mRNAに好んで結合することが見出された[論文発表済Yamazaki et al. Nat. Commun. 2023)]。piRNA生合成に必須の因子であるGTSF1とGTSF2の機能の相違を明らかにした[論文発表済(Bronkhorst et al. EMBOJ 2023)]。[RP-5] マウス胎児期生殖細胞のクロマチン動態に関与する因子としてMorc1を同定した。Morc1の有無によるクロマチン動態変化、RNA発現の変化を解析したところ、Miwi2との相関が見出された[論文発表済(Uneme et al. PNAS 2024)]。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は学術論文を3報発表した。それに加えて改訂中の論文が1報あり(dual-strand piRNAクラスタ選択に寄与する因子の同定に関する論文。これはBioRvixで既に公開済。Saito et al.)、執筆中の論文は2報ある。一報はDaedの機能に関する論文で2024年5月に投稿予定である(Koga et al.)。もう一報はShuの機能に関する論文で2024年夏に投稿予定である(Hirakata et al.)。昨年度の進捗状況で報告したL(3)mbtに挿入されたSpringerトランスポゾンに関する研究は、今年度も引き続いて行った。OSCゲノムのロングリードとiso-seqの結果を合わせて解析することによって、Springerは、約400程度のタンパク質をコードする遺伝子のイントロンに挿入されており、そのうちの40程度の遺伝子からは、OSC特有のisoformが発現していることが判明した。現在、これらOSC特有のisoformが翻訳されることによって生成されるタンパク質を解析している。Springer が挿入されるDNA部位のコンセンサス配列を特定することができた。ショウジョウバエLTR型トランスポゾンのゲノム転移に関する知見は少なく、よってこの研究をさらに発展させることによって、新規知見を蓄積する。OSCでSpringer がこれほどまでに活性化されている原因を探索したところ、OSCでpiRNAを生成する領域flam に大きな変異が生じており、それが機能性piRNAのpopulationに影響を及ぼしていることが判明した。Springer以外にも転移活性が上昇しているトランスポゾンに焦点を当てた解析も進めつつある。Minoのミトコンドリアへの局在に必要なドメインはalpha helixをとる。MinoはOSC以外の細胞では、TEドメインを持つisoformを発現しうるが、OSCでは敢えてこのisoformを発現しない。Minoはなぜ、OSCではTEドメインではなくalpha helixに依存してミトコンドリアに局在するのか、その謎を解くための解析を現在進めている。
[RP-1] piRNA生合成因子Shuは翻訳後直後のPiwiに結合し、piRISC前駆体の形成場Yb bodyに運び、SoYB/Vret複合体にPiwiを引き渡す。この過程はPiwi-piRISC生合成の促進に重要である。これまでShuに関する様々な解析を行い、新知見が蓄積したため、論文としてまとめつつあり、それをR5年度に発表する。Minoのミトコンドリア局在とMino機能に関する新知見も蓄積してきたため、その成果をR5年度に発表する。piRNA生合成機構におけるShu、Mino、Daed機能に関する論文を発表するとともに、OSCのpiRNA生合成機構に関して総説を執筆、発表する予定である。これまでL(3)mbt結合因子として新たに2つの遺伝子の同定に成功した。R5年度はこれら因子の生化学的解析を進め、L(3)bmbt/Lint-O複合体による下流遺伝子の制御機構を明らかにする。並行して脳におけるLint-O機能の解析を展開する。[RP-2] piRNA生合成因子Qinに関する実験結果が蓄積したため、論文を執筆する。BmN4細胞では、大半のトランスポゾンはSpn-E依存的に生成されたpiRNAによって抑制されるが、トランスポゾンCDはQin依存的に生成されたpiRNA依存的に抑制される。Qinが欠損した状態ではCD はカプシドを形成する。そこに含まれるRNAを解析したところ、CD自身のRNAとともに、宿主の特定のRNAも取り込まれていることが判明した。この現象の生理的意義を解析する。Vasaは核と細胞質をシャトルすることが見出され、VasaのNLS及びNESの同定にも成功した。今後は、Vasaの核局在の生理的意義を、複数の変異体を作成しそれらに結合するRNAを解析することによって明らかにする。 [RP-4] トランスポゾンCDのカプシドの立体構造解析を進める。[RP-5]Morc1を異所的に3T3細胞に発現することによって3T3に及ぼす影響を探索し、Morc1がgonocyteが以外の全ての細胞で発現抑制されていることの生理的意義を解明する。
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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すべて 雑誌論文 (22件) (うち国際共著 2件、 査読あり 22件、 オープンアクセス 22件) 学会発表 (87件) (うち国際学会 13件、 招待講演 9件) 備考 (2件)
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