研究課題/領域番号 |
19H05595
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分B
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山本 正伸 北海道大学, 地球環境科学研究院, 教授 (60332475)
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研究分担者 |
吉森 正和 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (20466874)
阿部 彩子 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (30272537)
関 宰 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (30374648)
入野 智久 北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (70332476)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
202,150千円 (直接経費: 155,500千円、間接経費: 46,650千円)
2023年度: 14,950千円 (直接経費: 11,500千円、間接経費: 3,450千円)
2022年度: 17,160千円 (直接経費: 13,200千円、間接経費: 3,960千円)
2021年度: 17,030千円 (直接経費: 13,100千円、間接経費: 3,930千円)
2020年度: 83,590千円 (直接経費: 64,300千円、間接経費: 19,290千円)
2019年度: 69,420千円 (直接経費: 53,400千円、間接経費: 16,020千円)
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キーワード | CO2 / 気候 / 氷床 / 氷期間氷期変動 / 海底コア / CO2濃度 / 気候変動 / 同位体 / 大陸氷床 / 温暖期 / 海洋循環 / プロキシ / 古気候 / 二酸化炭素 / 二酸化炭素濃度 / 過去600万年間 / 環境変動 / 温室効果 / 深海掘削 |
研究開始時の研究の概要 |
温室効果は地球表層の温度を決める重要な要素であり,過去の大気中CO2濃度を復元することは,地球の気候の歴史を考えるうえで極めて重要であるが,80万年前以前のCO2濃度の精密復元は行われていない.本研究では,ベンガル湾の堆積物コアに含まれる長鎖脂肪酸の安定炭素同位体比を測定し,600万年前から150万年前の大気中CO2濃度を復元する.得られたデータにもとづき,鮮新世における気候感度(CO2濃度と気温の関係)を推定する.さらに,過去600万年間のCO2濃度と海洋深層水温度・気温・氷床量変動との関係から,CO2濃度変動の原因を考察し,CO2と気候の相互作用を解明する.
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研究実績の概要 |
温室効果は地球表層の温度を決める重要な要素である。大気中CO2濃度の連続的な測定は1957年以降であり、それ以前のCO2濃度はアイスコア気泡中のガス測定により復元されている(Luthi et al., 2008など)。しかし、アイスコアの最古の氷は80万年前のものであり、それ以前のCO2濃度の精密復元は行われていない。本研究では、ベンガル湾の国際深海掘削科学計画(IODP)のU1445地点およびU1446地点の堆積物コアに含まれる長鎖脂肪酸の安定炭素同位体比(δ13CFA)を測定し、600万年前から現在までのCO2濃度を約1700年解像度で復元し、CO2濃度と気候の関係を明らかにすることを目指している。 U1446地点で得られた過去150万年間のCO2濃度変動記録と堆積物中のGDGT、浮遊性有孔虫の酸素同位体比、脂肪酸の水素同位体比にもとづく降水量変動を比較し、δ13CFA変動の2-10%が降水量変動により、 78%がCO2濃度変動により説明可能であることを示した。さらに、CO2濃度と降水量の変動がインド東部のC3/C4植生に与える影響を植生モデルを用いて検討し、CO2濃度変動は降水量変動の7.5倍δ13CFA変動に影響を与えることが示された。これらの検討によりδ13CFA変動が基本的にCO2変動を反映していることが明らかになった。復元したCO2濃度変動記録を専門誌(Nature Geoscience)上で公表した。 さらに、ベンガル湾インド沖の国際深海掘削科学計画(IODP)U1445地点で掘削された過去600万年間の堆積物コア試料のδ13CFAの分析を行い、測定を終了した。その結果、過去600万年間を通じて、CO2濃度は陸上氷床体積変動に対応して変動していること、しかし長期トレンドをみると氷床の拡大に約100万年先行して、CO2濃度が低下していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ベンガル湾インド沖の国際深海掘削科学計画(IODP)U1445地点で掘削された過去600万年間の堆積物コア試料計3500点について20 cm間隔(1500-2000年間隔)でδ13CFAの分析を行い、測定を終了した。堆積物の年代を高精度に明らかにするための底生有孔虫の酸素同位体比の分析もおよそ9割が終了したが、一部の層準では測定に必要な有孔虫が得られなかったため、対象種と試料を追加し、分析を継続している。降水量と関係の深い脂肪酸水素同位体比の分析はおよそ7割が終了した。GDGT組成にもとづく水温指標であるTEX86の分析はおよそ8割終了した。 また、U1446地点のイネ科に由来するペンタトリテルペンメチルエーテル(PTME)と燃焼起源の多環芳香族炭化水素を分析し、インド東部では、降水量の多いときイネ科植物の被覆度が高く、火災頻度も高かったことが示された。夏季モンスーン降雨により生育した草本類が冬季には乾燥し、火災を引き起こすことによると考えられる。これらの結果から、インド東部では、草本類の存在量の変化はC4植物の存在量の変化とは独立していることが示された。 復元されたCO2 濃度の長期トレンドは、太平洋と大西洋の深層コアの底生有孔虫炭素同位体比の差や、太平洋深海の鉄マンガンノジュールに記録された深層水の溶存酸素濃度の長期的変化、南大洋のダストフラックス、海洋生産量、表層水温度の長期的変化と似ていることが明らかになった。これらの対応関係から、大気CO2の長期的変化は、海洋深層循環の変化に対応していたことが想像できる。また、330万年前以降、陸上氷床拡大イベントに対応して30 ppm程度の急なCO2濃度の低下が認められた。CO2濃度の低下が更新世の氷期間氷期変動を導くきっかけとなったことが示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
底生有孔虫の酸素同位体比を終了し、コアの深度と年代の関係を確立する。脂肪酸水素同位体比、TEX86の分析を終了し、過去600万年間のインド東部の降水・気温の変化を明らかにする。δ13CFAを用いたCO2濃度復元は、降水量と気温の変動範囲がCO2濃度変動による影響よりも十分に小さい条件(サバンナ植生)でのみ有効である。現時点で得られている脂肪酸水素同位体比とTEX86は過去600間年間を通じて後期更新世の気候変動の範囲を逸脱していないことを示しているが、分析を完了し、見解を確定する。また、堆積物供給源の変化はδ13CFAに影響する可能性があるため、X線粉末解析による高時間解像度の鉱物組成の分析を行い、その影響の有無を検討する。 復元されたCO2 濃度と底生有孔虫酸素同位体比の変動について周期解析を行い、周期および振幅の変調、コヒーレンス、位相差の変化を検討し、CO2と大陸氷床および海水準との相互作用を検討する。復元されたCO2 濃度データにもとづき、気候モデルを用いた600万年間から現在までの期間の氷床体積のシミュレーションを実施する。鮮新世の寒冷イベントにおける南極氷床の拡大、更新世始めの北半球氷床の拡大、中期更新世遷移期における氷床サイクルの周期と振幅の拡大にCO2濃度変動がどのように関与したかを検討する。熱帯西部太平洋を中心に世界各地の海洋表層と温度躍層のプロキシ古水温記録をコンパイルし、CO2変動との関係を統計的に解析し、CO2による温室効果が海洋表層および内部に及ぼす影響を検討する。前期鮮新世のCO2濃度と同時期の全球平均気温を比較することにより、温暖期におけるCO2濃度の全球気温に及ぼす影響を評価する。 これまで得られた結果をとりまとめ論文を作成し,科学雑誌に投稿する.
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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