研究課題/領域番号 |
19H05600
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分B
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
齊藤 英治 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (80338251)
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研究分担者 |
塩見 雄毅 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (10633969)
高橋 三郎 東北大学, 材料科学高等研究所, 学術研究員 (60171485)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
206,310千円 (直接経費: 158,700千円、間接経費: 47,610千円)
2023年度: 20,670千円 (直接経費: 15,900千円、間接経費: 4,770千円)
2022年度: 20,670千円 (直接経費: 15,900千円、間接経費: 4,770千円)
2021年度: 20,670千円 (直接経費: 15,900千円、間接経費: 4,770千円)
2020年度: 25,220千円 (直接経費: 19,400千円、間接経費: 5,820千円)
2019年度: 119,080千円 (直接経費: 91,600千円、間接経費: 27,480千円)
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キーワード | スピントロニクス / 核スピントロニクス / スピン流 / 核スピン流 / 核スピンゼーベック効果 / 核スピン波 / 核磁気共鳴 |
研究開始時の研究の概要 |
スピン流科学は、電子角運動量の流れを利用・制御することで、多彩な物性機能を作り出してきた。一方で、核スピンは量子センサーや量子情報担体として大きな注目を集めている。この二つのスピン科学技術分野の間には従来接点がほとんど無く、わが国が得意とするスピン流科学においても核スピンを組み込むことができなかった。ところが最近、申請者らによって核スピンからのスピン流生成「核スピンポンピング」が発見され、核スピンとスピン流をつなぐ突破口が初めて開かれた。これを利用し、核スピンに関係する基礎輸送物性を開拓し「核スピン流科学」を構築する。
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研究実績の概要 |
本研究は、原子核スピンとスピン流物性を繋ぐ新たな学問領域「核スピン流科学」を建設するものである。本年度は主に以下の3課題について研究を進めた。 1.電流誘起核スピン流非局所輸送の開拓:Pt/MnCO3/Ptからなる微細加工素子を作製し、核スピン流の非局所輸送測定を希釈冷凍機で行った。Pt細線の一方に電流を流すことで生じるスピン蓄積(スピンホール効果)を入力としてMnCO3中の核スピン流を駆動し、その輸送効果をもう一方のPt出力端子で電気的に検出した。すると意義深いことに、超低温域まで信号が発達し、核スピンゼーベック効果と整合する温度依存性が観測された。これは固体中の核スピン流駆動とその電気的検出が実現されたことを示唆している。 2.核スピン波分光学の開拓:本研究で構築した、低温・強磁場対応の広帯域マイクロ波反射分光システムを高核スピン核種55Mnを含む金属薄膜(NiMnSb)に適用し、明瞭な核磁気共鳴(NMR)の観測に成功した。本手法に基づけば、核スピンの共鳴周波数や磁場分散に関する情報を従来よりも簡便且つ詳細に得ることができる。これは核スピントロニクスを開拓する上での新しいアプローチを提供するだけでなく、今後、従来のパルスエコーNMR法との相補利用等の高い波及効果が期待できる。 3.物質開拓:核スピン流を担う物質群の開拓のため、徐冷法に基づき55Mn核を含む高核スピン材料AMnX3(A=Cs, X=Cl)の合成及び、金属薄膜試料の作製を行った。これらを上記2の研究に適用し、核スピン波励起の観測に成功した。またこのアプローチが遍歴電子を舞台とした核スピン現象の開拓につながるなど、意義深い進展があった。引き続き、本課題の測定班と密に議論しながら、試料合成を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の中核をなす核スピンゼーベック効果の実証とその系統研究に関する成果が国内外の多くの解説記事に掲載され、本プロジェクト発の成果として大きな反響を生んでいる。また、固体中の核スピンの新しいスペクトロスコピーの開拓も順調に進み、高核スピン核種55Mnを含む金属薄膜における核磁気共鳴(NMR)を広帯域マイクロ波分光によって初めて検出することに成功した。本成果は、核スピントロニクスを開拓する上での新しいアプローチとして高い波及効果を生み出すものと期待される。また、チャレンジングなテーマとして、スピン流・電流を駆動源としたNMRの電気的励起・検出を目指す実験も進めており、最初の信号を見出すことに成功した。核スピンを用いた新しい科学技術の構築に向けて順調に研究が進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、(1)低対称性系における核スピントロニクス、(2)スピン流を利用した新しい核磁気共鳴法、(3)核スピンと他素励起結合系の励起状態の観測と制御について、開拓を行う。 (1)低対称系における核スピントロニクス:反転対称性が破れた系ではスピン軌道相互作用により、電子系のエネルギーバンドのスピン縮退が解ける。このような系に電場を印加すると有意な電子スピン偏極が現れる(エデルシュタイン効果)。このスピン軌道効果によって生じる非平衡電子スピン偏極と核スピンとの相互作用現象を実験的に開拓し、電場誘起電子スピン偏極を利用した核スピン状態の制御等、未開拓な現象群の観測に着手する。 (2)電流・スピン流を利用した新しい核磁気共鳴法:55Mn等の大きな核スピンをもつ核種から構成される遍歴強磁性体において、電流・スピン流を入力として生じる新しい核磁気共鳴(NMR)法の開拓とその電気的検出に挑む。遍歴強磁性体では、スピントルク効果、磁化反転等、従来の電子スピントロニクスで開拓されてきた豊富な現象群が存在する。これらの核スピン版ともいえる新しい現象群の開拓を行い、遍歴電子を舞台とした核スピントロニクスの学理創出を行う。 (3)核スピンと他素励起結合系の励起状態の観測と制御:核スピンは超微細相互作用を介して電子系と強く結合しており、例えば55Mn系のオンサイト超微細磁場の大きさは数十テスラにも及ぶことが知られている。この有効磁場と電子間相互作用を介して、核スピンと電子スピン波の混成状態「核スピン波」の形成が期待できる。この状態を電気輸送測定及び分光学的手法を通じて観測し、またその温度・磁場依存性等の系統測定を通じて、物理機構を解明する。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A+: 研究領域の設定目的に照らして、期待以上の進展が認められる
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