研究課題/領域番号 |
19H05601
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分B
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
酒見 泰寛 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (90251602)
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研究分担者 |
長濱 弘季 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (00804072)
青木 貴稔 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (30328562)
羽場 宏光 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 室長 (60360624)
高峰 愛子 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (10462699)
田中 香津生 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, リサーチフェロー (20780860)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
200,460千円 (直接経費: 154,200千円、間接経費: 46,260千円)
2023年度: 17,030千円 (直接経費: 13,100千円、間接経費: 3,930千円)
2022年度: 31,330千円 (直接経費: 24,100千円、間接経費: 7,230千円)
2021年度: 46,020千円 (直接経費: 35,400千円、間接経費: 10,620千円)
2020年度: 57,200千円 (直接経費: 44,000千円、間接経費: 13,200千円)
2019年度: 48,880千円 (直接経費: 37,600千円、間接経費: 11,280千円)
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キーワード | 基本対称性 / 電気双極子能率 / バリオン生成 / 光格子重元素干渉計 / レーザー冷却分子 / 電子双極子能率 / 基本対手性 |
研究開始時の研究の概要 |
ヒッグス粒子の発見によって、物質の質量獲得機構をはじめ、素粒子物理学は大きく発展した。しかし物質・反物質対称性(CP対称性)破れの機構は十分には説明できず、根源的な枠組みが必要となっている。素粒子の階層問題、ゲージ結合定数の統一、暗黒物質の実体等を解決する有力な考え方では、未知の粒子と対称性の存在が示唆されている。本研究では、未知粒子が生成・伝搬・消滅を繰り返す量子補正効果により、素粒子に発現する永久電気双極子能率(EDM)の検出を目指す。この量子補正効果は極めて小さいが、素粒子を構成要素にもつ原子・分子を量子制御し、光格子干渉計によるEDMの精密量子計測を実現してCP対称性破れの起源を探る。
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研究実績の概要 |
反物質消失の機構、暗黒物質の素粒子的実体を解明するために、物質・反物質対称性を破る観測量である基本粒子の永久電気双極子能率(EDM)を探索する。特に、重元素・フランシウムでは、相対論効果や原子核における8重極変形効果により、電子や核子のEDMが増幅されることに着目し、原子を用いたEDMの新しい量子センシング技術を確立する。 本年度は、開発が完了したレーザー冷却Fr源において、磁気光学トラップ(MOT)中の捕獲Fr収量を増大させるため、①ECRイオン源の運転方法を高度化し、一次ビームの強度増強、②高純度Frビーム生成のための高周波質量分析装置の開発、③Frイオンの電子再結合効率を向上させるため、イットリウム(Y)標的の表面清浄化、等の開発を進め、すべての装置の動作確認を行いトラップ効率の向上を行った。①は、ECRイオン源のプラズマチェンバー内に、バッファーガス導入を行うことで、引き出し18Oビーム強度の増強を実現した。②は、Frを生成する表面電離イオン源の引き出し電極を分割し、その2枚の電極に高周波をかけることで、K、Rb等、Frより軽いイオンに関しては、効率よく除去し、Frのみを下流に輸送できることを実証した。③は、Y表面が酸化や汚染されることで、Yの仕事関数が変化することで、電子再結合の効率が著しく悪くなることを確認し、Arイオン銃を用いて、事前にY表面をスパッタリングすることで、不純物を除去し、電子再結合を所定の効率で行えることを確認した。 さらに、このFr-MOT効率向上に向けた各構成要素の性能最適化と並行し、MOTの後段に設置する光格子のレーザー光源の開発を進め、高放射線環境下でも動作できるよう、構成部品を自前で製作できる高強度ファイバーレーザーを実現した。また、225Acを用いた221Fr-MOTの実験装置も完成し、オフラインでのFr-MOT実験の準備を整えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、210Frにおいて、相対論効果により電子EDMの増幅度が高いこと、そして同位体である221Frでは、中性子数が増えることで原子核の変形(8重極変形)効果が大きくなり、原子核のEDM(クォーク色電荷により生じる原子核のシッフモーメント)が増幅されることに着目して、レーザー冷却FrのEDM量子計測技術の確立を目指している。 今回、このEDM測定の心臓部である2種類(210Fr/221Fr)の冷却Fr源の開発を完了し、EDM量子計測技術に必要な共存磁力計の開発が進んだことで、おおむね予定通り、進展していると判断している。 210Frの冷却原子源は、理研・AVFサイクロトロンから供給される18ビームによる核融合反応を用いたFr生成・オンラインレーザー冷却・トラップのビームラインで構成されるが、すべて装置の開発は完了し、機器制御・データ収集系も完備した。今回、各構成要素の効率向上を目指した性能評価、高度化を行い、Frトラップ効率向上、Fr生成の安定供給を実現した。また、221Frは、そのgeneratorである225Acの放射性同位元素の日本アイソトープ協会からの供給が停止したため、東北大・金属材料研究所・アルファ放射体実験室における225Ac製造、理研・ホットラボでの高強度Ac線源開発、そして、221FrのオフラインMOT実験装置の開発をすべて完了し、さらに、400m離れたレーザー光源室からのトラップ光の伝送を光ファイバーにより可能にした。すでに、Rbを用い、ホットラボ・グローブボックス内に設置したMOTで、トラップを確認し、221FrのMOTの実証ができる段階になっている。 さらに、EDM測定系で重要な共存磁力計の開発では、これまでFrとは異なる異種原子としてルビジウムをトラップできるyようにしていたが、それに加えて、セシウム原子も共存トラップできる光源開発が完了した。
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今後の研究の推進方策 |
光格子原子干渉計による新しいEDM探索手法の確立は、①2種類のレーザー冷却Fr源(210Fr/221Fr)の実現、②光格子原子干渉計の開発、③共存磁力計の実装の3つを有機的に連携させる必要がある。これまで、この3つの開発は、順調に進んでおり、今年度は、各構成要素の性能向上と、この3つの構成装置のハンドシェイクによる総合動作試験と実証を行う。 ①に関しては、2022年度に解決してきた電子再結合の効率を向上させる方法として、Y標的表面の清浄化を行う手順を確立し、MOTでの捕獲Fr数の増強を継続して行う。②は、オフラインでRbを用いた一次元光格子によるラムゼー分光を確認し、①と②を連動させ、オフラインでRbを用いた表面電離、電子再結合、MOT、光格子、ラムゼー分光まで、一連の動作確認、そして系統誤差の評価を進める。さらに、Frを用いて、国際的に初めての挑戦となるFrの光格子実験を行う。また、共存磁力計の実証を行うため、③において、MOTでのRb/Csの2種原子トラップを確認後、②と③を連携して、光格子での2種原子同時トラップと、ファラデー回転によるスピン歳差周期測定を行い、共存磁力計の原理実証を行う。最終段として、①②③を連動し、加速器オンライン実験において、Frを生成しながら、Rb/Csを光格子に共存トラップし、そのラムゼー分光を行うことで、光格子原子干渉計と共存磁力計を用いたEDM探索手法の確立を行う。 次世代EDM測定技術の確立を進めながら、理論的にFr-EDMから電子EDM、そしてシッフモーメントを抽出する解析手法を確立するために、210Frにおいて進めた相対論的結合クラスター理論による電子EDM増幅度の高精度理論計算を、221Frに関しても展開し、221Frにおける原子核の8重極変形によるシッフモーメントの増幅度の評価を行う。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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