研究課題/領域番号 |
19H05602
|
研究種目 |
基盤研究(S)
|
配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分B
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩佐 義宏 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20184864)
|
研究分担者 |
宇佐見 康二 東京大学, 先端科学技術研究センター, 准教授 (90500116)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
200,980千円 (直接経費: 154,600千円、間接経費: 46,380千円)
2023年度: 27,430千円 (直接経費: 21,100千円、間接経費: 6,330千円)
2022年度: 27,430千円 (直接経費: 21,100千円、間接経費: 6,330千円)
2021年度: 27,430千円 (直接経費: 21,100千円、間接経費: 6,330千円)
2020年度: 61,880千円 (直接経費: 47,600千円、間接経費: 14,280千円)
2019年度: 56,810千円 (直接経費: 43,700千円、間接経費: 13,110千円)
|
キーワード | 2次元物質 / ファンデルワールスヘテロ接合 / 非線形現象 / 電界効果 / 2次元物質 / 磁性ヘテロ接合 |
研究開始時の研究の概要 |
近年の物質科学は、原子層1層あるいは数層の物質が安定に存在し、これがバルクの結晶と大きく異なる性質を示すことを明らかにしてきた。その結果、2次元物質という新しい一大分野が形成されている。現在、2次元物質を自在に積層したファンデルワールス(VdW)ヘテロ接合が、従来の格子整合を前提としたヘテロ接合の枠組みを大きく超えた新しい概念として注目されており、今後、その物性・機能の開拓が大きな課題となってくる。本研究の目的は、VdWヘテロ接合からなる様々な新物質を作製し、単一物質では決して得られない新しい物性と機能を見出すことである。
|
研究実績の概要 |
2022-2023年度は、従来から続けていた磁性ファンデルワールス(vdW)ヘテロ接合におけるフェロバレー強磁性の実現を論文発表することができた(Nature Communications)。一方で、多くの資源を2次元磁性体のMBEによる作製と評価、2次元物質の非相反輸送現象(バルク光起電力と非相反輸送現象)とインターカレーションの研究に割いた。 MBEによる物質開発としては、CrをインターカレートしたNbSe2の作製と角度分解高電子分光によって、バンド交差を有するトポロジカルバンド構造をもつことを明らかにした(Phys Rev Research)。また、インタ―カレーション化合物Cr3Te4を多層から2層まで作製し、強磁性転移温度が全く総数依存しない、面直異方性が非常に強い2次元強磁性体であることを証明した(Nano Letters)。 2次元強磁性へのアルカリ金属インターカレーションにおいては、南京大学との共同研究として、Fe5GeTe2 においてキャリア数変化によって強磁性転移温度と磁気異方性の制御が可能であること初めて明らかにした(Nature Electronics)。 非相反輸送現象の研究においては、今回はじめて温度低下に伴って非極性―極性構造への構造相転移を起こすMoTe2に適用した。その結果、構造相転移直下ではなく、かなり低温になって初めて非相反信号が増強されることが明らかになり、半金属特有のバンド構造の効果が非相反信号の増強に重要な役割を果たすことを明らかにした(Phys Rev Research)。 バルク光起電力の研究では、カナダのUBCグループとの共同研究が特筆される。3R-MoS2では、面直方向のバルク光起電力効果を初めて観測することに成功した(Nature Photonics)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、2次元物質やvdWヘテロ接合を中心とした物質開発と、それによって実現される相制御と非線形伝導現象の解明を行う目的で開始された。しかし、期間中に2次元層状物質へのインターカレーションと、ひずみデバイスを導入した結果、初期には予想もしなかった発展がもたらされている。 これは、今回報告した論文7報の内訳にも表れており、MBEによる2次元磁性体の作製と物性2報、vdWヘテロ接合に関する論文1報、非線形伝導2報という初期の目的に沿った研究成果に加え、インターカレーションによる磁性制御1報、ひずみ効果による論文が1報が出版されている。以下では新機軸によって得られた2つの成果を説明する。なお上記7報のうち、2報は国際共同研究である。 第1は中国南京大学との共同研究として行われた2次元磁性半金属のインターカレーションによるキャリア数制御で、これにより磁気異方性をキャリア数で制御できることを明らかにすることができた(Nature Electronics)。 第2に、2022年に開始され2023年に論文が発表されたひずみ効果によるバルク光起電力の増強(Nature Nanotechnology)が、あげられる。バルク光起電力は、MoS2において、三回回転対称性の構造からは許容されているにもかかわらず実験的には観測されない。これは10年前から知られており、未解決の問題である。本グループは三回対称の結晶に1軸性ひずみを印加し、電気分極を誘起することによってバルク光起電力が誘起されることを発見した。これは、へき開によって得られる2次元結晶のデバイスにひずみを印加する技術を開発することによって得られた成果であり、今後対称性制御と非線形伝導との関係を解明する有力な手法になると考えられる。 このように、本来の目的に沿った研究と新しい機軸の研究からともに成果が上がっていることが上記の判断の根拠である。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は、2次元物質やvdWヘテロ接合を中心とした物質開発、特に対称性の制御と非線形伝導現象の開明を行う目的で開始されたが、その後、インターカレーションやひずみ効果など、新しい物質開発、制御法の導入を行った結果、予想外の発展を遂げている。この方針を受けて、2023年度以降も、①Cr3Te4へのインターカレーションによる磁性制御、②2次半導体MoS2へのアルカリ金属インターカレーションによる構造相転移と超伝導の解明、③超伝導ダイオード効果の歪み効果などのテーマに拡張してゆく計画である。特に、①は強磁性半金属における新しい磁気秩序発現機構につながると期待している。 しかしながら一方でファンデルワースルヘテロ接合による新物質開発が手薄になってしまった。本研究前半では、WSe2/黒リンvdWヘテロ接合を用いた電気分極制御や、NbSe2/V5Se8における磁性vdWヘテロ接合によるフェロバレー強磁性の発現などを実現してきたが、これらの研究からvdWヘテロ接合が対称性を意図的制御に非常に有効であることが明らかになった。研究終了に向けて、その方向をさらに発展させ、新規磁性vdWヘテロ接合に展開する。具体的には、異なる2次元強磁性体のヘテロ接合で、面直強磁性と面内強磁性の単層~数層のヘテロ接合である。これまで2次元物質における磁性vdWヘテロ接合の研究は専ら共線的磁気構造が対象となっていたが、ここでは非共線的なスピン構造をもつvdWヘテロ接合の研究を行う。逆ジャロシンスキー守谷相互作用による分極発生、トロイダルモーメントなどの多極子秩序などが期待され、今後の新たな発展につながる可能性のある分野である。 以上のように、残された期間では、本研究の中心となるvdWヘテロ接合と、新展開としてのインターカレーションやひずみ効果などによって、2次元物質、vdW物質特有の物質科学の形成に貢献する。
|
評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A+: 研究領域の設定目的に照らして、期待以上の進展が認められる
|