研究課題/領域番号 |
19H05630
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分E
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
林 雄二郎 東北大学, 理学研究科, 教授 (00198863)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
173,290千円 (直接経費: 133,300千円、間接経費: 39,990千円)
2023年度: 30,290千円 (直接経費: 23,300千円、間接経費: 6,990千円)
2022年度: 30,160千円 (直接経費: 23,200千円、間接経費: 6,960千円)
2021年度: 30,290千円 (直接経費: 23,300千円、間接経費: 6,990千円)
2020年度: 33,150千円 (直接経費: 25,500千円、間接経費: 7,650千円)
2019年度: 49,400千円 (直接経費: 38,000千円、間接経費: 11,400千円)
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キーワード | 全合成 / 生物活性分子 / 有機触媒 / 不斉合成 / 天然物 / 不斉触媒反応 |
研究開始時の研究の概要 |
短段階合成は現在の天然物合成の潮流の一つであるが、複雑骨格を有する化合物の大量合成可能な手法での短段階合成は未解決の挑戦的課題である。筆者は、革新的触媒である有機触媒を開発し、多くの実用的・大量合成可能な不斉触媒反応を見出した。また複数の反応を同一反応容器で行う、ポットエコノミーという独自の概念を提唱している。そこで、大量合成可能な有機触媒反応と迅速合成を可能とするポットエコノミーを組み合わせれば、複雑な骨格のため未開拓な希少天然物群を、短段階で大量合成可能と考えた。さらに、合成中間体を用いて、種々の誘導体を作成し、天然物を超える生物活性を有する人工有機化合物を創出する事を目的とする。
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研究実績の概要 |
天然物を基に優れた医薬品が多数開発されてきた。しかし、入手困難で、複雑な骨格を有する天然物、特に分子量が500以上の中分子天然物の科学は、未開拓のままである。短段階合成は現在の天然物合成の潮流の一つであるが、複雑骨格を有する化合物の大量合成可能な手法での短段階合成は未解決の挑戦的課題である。筆者は、革新的触媒である有機触媒を開発し、多くの実用的・大量合成可能な不斉触媒反応を見出し、複数の反応を同一反応容器で行う、ポットエコノミーという独自の概念を提唱している。そこで、大量合成可能な有機触媒反応と迅速合成を可能とするポットエコノミーを組み合わせ、複雑な骨格のため未開拓な希少天然物群を、短段階で大量合成することを目的とし、研究を行う。 アンポテリシン B は38員環ポリエンマクロリドで、強力な抗真菌剤である。1,3-ジオール部位を複数箇所有する。アルドール反応がこの部位の構築に有効であり、これまでの検討で、独自の有機触媒を用いたアルドール反応を基盤として1,3-シンジオールの立体選択的合成に成功している。今回、有機触媒を用いた1,3-アンチジオールの合成について検討を行い、この反応を利用して、アンポテリシン Bの部分構造の合成を検討した。 アンフィジノライドNの合成に関しては、部分構造の合成を継続して行った。 モルヒネは4級炭素を有し、複数の連続する不斉点を有する合成の困難な化合物であり、置換シクロヘキサン環を有している。今回、筆者らの開発した有機触媒を利用し、連続的なマイケル/マイケル反応による、光学活性な置換シクロヘキサン骨格の構築を検討した。 一方、有機触媒を固定化すれば、回収の必要がなく、再利用が容易になり、より効率的な合成法になる。さらに、固定化した触媒をフロー反応に適用できれば、連続的な優れた化合物合成手法になる。そこで、筆者らの開発した有機触媒の固定化について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アンポテリシン B の部分骨格でもある1,3-アンチジオール部位の合成に関して、筆者らの開発したdiarylprolinolという有機触媒を用いる不斉触媒アルドール反応に引き続き、Wittig反応を行い、ジアステレオ選択的なエポキシ化反応、さらに、エポキシドの還元的な開環反応を行うことにより、立体選択的に高い不斉収率で、その合成に成功した。さらに本合成は一般性を有することを明らかにした。これまでの検討で、有機触媒を基盤として1,3-シンジオール部位の合成に成功していることから、両ジアステレオマーの不斉合成法を確立することができたことになる。 筆者らの開発した有機触媒のポリマーへの固定化に関しては、一般に触媒をポリマーに固定化すると触媒の反応性が低下することが知られている。固定層にどのようなポリマーを使用するかが重要である。今回、水との親和性が比較的高いPS-PEGを選定し、プロリンの4位の水酸基を利用して、クリック反応を用いて、有機触媒のポリマーへの固定化を行った。固定化触媒は、有機溶媒中では反応の進行が遅かったが、含水溶媒中で反応を行うと、顕著な加速効果が観測され、不斉収率を損なうことなく、反応が進行することを見出した。しかし、反応時間が長くなるにつれて、触媒活性が徐々に低下することが観測された。 多くの生物活性分子の基本構造である、シクロヘキサン骨格の不斉触媒構築法について検討した。αアセチルβアリールα,β不飽和エステルとα,β不飽和アルデヒドとの反応を有機触媒存在下行ったところ、連続的なマイケル/マイケル反応が進行し、5置換シクロヘキサン誘導体がほぼ光学的に純粋に、また高いジアステレオ選択性で得られることを見出した。本反応は広い一般性を有する。本手法は、多くのシクロヘキサン骨格を有するモルヒネ等の天然物合成に展開可能である。
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今後の研究の推進方策 |
アンポテリシン Bに関しては、それぞれの部分の立体選択的な合成がほぼ完了した段階である。今後はそれぞれの部分を順次連結する。全合成の終盤にあたり、各合成部位はすでに多くの官能基を有しており、それらの官能基が損なわれることなく、連結反応が進行する条件を見出す。特に酸、塩基、酸化剤に不安定と考えられるポリエン部位を有しているため、合成終盤の変換反応は困難が予想されるが、精緻な条件探索を行う。そのような条件が見出されない場合は、保護基の再検討を行い、原料合成に立ち返って、異なる保護基を有する部分の合成を検討する。 光学活性なシクロヘキサン骨格の構築法を見出したので、この手法をモルヒネの合成に展開する。モルヒネはシクロヘキサン骨格を有しているが、そのほかに、合成が困難な4級炭素と連続する4つの不斉点を有している。4級炭素の構築が合成の課題の一つである。光学活性なシクロヘキサンから変換反応を行い、分子内に電子不足アルケン部位とブロモベンゼン部位を併せ持つ基質を合成し、分子内ラジカル反応により立体選択的に4級炭素を構築する。ラジカルは立体障害の影響を受けにくいこと、分子内反応を利用することにより、反応が進行するものと考え、基質の設計を行う。 固定化触媒に関しては、合成した固定化触媒を種々の反応に展開し、その適用範囲の拡大を検討する。また種々のフロー反応に固定化触媒を適用して、固定化触媒の展開を図る。 アンフィジノライドNに関しては巨大分子であり、これまで大きく3つの部位に分けて合成を行なっている。今後、必要となるそれぞれの部分の量的な供給を行いつつ、全合成研究を進めていく。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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