研究課題/領域番号 |
19H05644
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分G
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
森 郁恵 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (90219999)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
158,210千円 (直接経費: 121,700千円、間接経費: 36,510千円)
2023年度: 27,040千円 (直接経費: 20,800千円、間接経費: 6,240千円)
2022年度: 27,040千円 (直接経費: 20,800千円、間接経費: 6,240千円)
2021年度: 27,040千円 (直接経費: 20,800千円、間接経費: 6,240千円)
2020年度: 47,320千円 (直接経費: 36,400千円、間接経費: 10,920千円)
2019年度: 29,770千円 (直接経費: 22,900千円、間接経費: 6,870千円)
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キーワード | 神経回路 / 情報処理 / 行動制御 / 光遺伝学 / C.elegans / 動物行動 / 光操作技術 / C. elegans / 細胞間コミュニケーション / 温度走性 / ばらつき / 光遺伝子 |
研究開始時の研究の概要 |
コンピュータはアルゴリズムに沿って再現性のある計算を行うが、動物は同一の感覚入力に対しても「ばらついた応答」を示す。動物は、この一見曖昧な情報処理戦略を用いて、不確実に変動する環境に適応している。本研究では、感覚刺激から行動に至る一連の情報処理の過程で、この「ばらつき」がどのように生み出されるかを解明する。そのため、カルシウムイメージングと光遺伝学をリアルタイムに統合したシステムを開発し、そのシステムを活用することで、行動のばらつきを生み出す神経ロジックを読み解く。
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研究実績の概要 |
本研究は、リアルタイム光操作技術を開発し、感覚ニューロンの活動が行動に変換されるまでのプロセスを明らかにすることを目指している。 自由行動中の線虫を追尾し、蛍光イメージングと光刺激を行うシステムの開発を進め、行動および神経活動の解析を遂行中である。また、特定のニューロンの活性を操作しながら多個体の線虫の行動を計測するシステムを開発し、行動解析を進めている。さらに、時間的に変動する温度刺激を線虫に与えながら行動を計測するシステムを開発し、温度刺激依存的な行動解析を行った。その結果、温度感覚ニューロンAWCが、温度刺激のもとで行動のゆらぎの制御に関わることを見出した。また、AWCは下流の神経活動パターンにばらつきをもたらしていることを示唆する結果が得られた。 順遺伝学的スクリーニングにより、温度情報処理に関わる因子を発見した。Obg-like ATPase (OLA-1)が線虫の摂食経験と飼育温度を連合させる上で重要な役割を果たしていることを明らかにし、OLA-1が温度感覚ニューロンAFDと介在ニューロンAIYの活動同期の制御に関与していることを見出した。また、microtubule-associated serine threonine kinaseの線虫ホモログをコードするkin-4が、線虫の高温側および低温側への移動の両方を制御する因子であることを明らかにし、ストマチンの線虫ホモログをコードするmec-2の変異体が示す好熱性異常がCREB転写制御因子の線虫ホモログをコードするcrh-1の機能喪失型の変異によって抑制できることも発見した。また、mec-2とcrh-1はAIYの神経活動を制御していることを見出した。 温度感覚ニューロンAFDにおいてcGMPシグナルの計測にも成功し、cGMPシグナルが飼育温度に依存して温度上昇と温度下降の両方に応答することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光遺伝学を用いて温度感覚ニューロンAFDを活性化させ、それによって引き起こされる行動パターンを計測するシステムを開発し、数十個体の線虫の姿勢と行動履歴を追跡することが可能となった。また、このシステムで得られた行動時系列を数理的に解析するためのプログラムの作成に取り組んだ。さらに、時間的に変動する温度刺激を線虫に与えながら行動を計測するシステムを開発し、温度刺激依存的な行動パターンの解析を行った結果、温度感覚ニューロンAWCが、温度刺激のもとで行動のゆらぎの制御に関わり、さらにAWCは下流のニューロンの活動パターンにばらつき(個体差)をもたらしていることを示唆する結果が得られた。 順遺伝学的スクリーニングにより、Obg-like ATPase (OLA-1)が線虫の摂食経験と飼育温度を連合させる上で重要な役割を果たしていることを明らかにした。また、microtubule-associated serine threonine kinaseの線虫ホモログをコードするkin-4が、線虫の高温側および低温側への移動の両方を制御する重要な因子であることを明らかにした。また、ストマチンの線虫ホモログをコードするmec-2の変異体が示す好熱性異常がCREB転写制御因子の線虫ホモログをコードするcrh-1の機能喪失型の変異によって抑制されることを発見した。カルシウムイメージングにより、mec-2とcrh-1は介在ニューロンAIYの活動を制御していることを見出した。さらに、温度感覚ニューロンAFDにおいてcGMPシグナルの計測にも成功した。蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)ベースのcGMPプローブをAFDに発現させて蛍光強度変化を計測したところ、cGMPシグナルが飼育温度に依存して温度上昇と温度下降の両方に応答することがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに開発を進めてきた光操作技術とイメージングシステムによって、神経突起でダイナミックな応答を示すニューロンの活動計測が可能になってきているため、温度感覚ニューロンAFDが活性化した際のこれらの下流のニューロンの応答パターンを計測・解析する実験を進める。下流のニューロンの一群は、細胞体ではカルシウムの変動が見られず、その神経突起において顕著な活動を示すため、それらを計測・解析することで、感覚情報処理と行動制御の背後にある新規な神経動態を明らかにできる可能性がある。さらに、これまでに開発を進めてきた多個体の行動アッセイシステムを用いて、温度感覚ニューロンAFDの活性化によって引き起こされる行動のパターン、および統計的性質を明らかにする。さらに最近、我々はニューロン以外の細胞や組織が、線虫の温度情報処理に関与していることを見出している。そこで、非神経細胞(皮膚細胞)の行動制御への関連を明らかにするため、光駆動性チャネルを非神経細胞に遺伝子導入する試みを現在行っている。この実験をさらに進め、非神経細胞がどのように行動制御に関与するかを調べる。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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