研究課題/領域番号 |
19H05659
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分I
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
野田 昌晴 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特任教授 (60172798)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
182,650千円 (直接経費: 140,500千円、間接経費: 42,150千円)
2023年度: 38,090千円 (直接経費: 29,300千円、間接経費: 8,790千円)
2022年度: 33,020千円 (直接経費: 25,400千円、間接経費: 7,620千円)
2021年度: 33,020千円 (直接経費: 25,400千円、間接経費: 7,620千円)
2020年度: 33,020千円 (直接経費: 25,400千円、間接経費: 7,620千円)
2019年度: 45,500千円 (直接経費: 35,000千円、間接経費: 10,500千円)
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キーワード | 高血圧 / 塩分摂取 / アンジオテンシンⅠⅠ / Naxチャンネル / レプチン / アンジオテンシンII / アルドステロン / 血圧上昇因子 / 脳室周囲器官 / 交感神経制御中枢 |
研究開始時の研究の概要 |
申請者らは、長年謎であった食塩感受性高血圧発症の脳内機構を最近世界に先駆けて明らかにした。食塩の摂り過ぎ以外にも肥満やストレスによって高血圧が発症することは良く知られている。本研究では、肥満やストレスによって血中濃度が上昇するレプチン、アンジオテンシンII、アルドステロンの3つの高血圧誘導因子について、脳内における受容とシグナル伝達経路を明らかにする。さらに、それぞれの経路について、体液Na+濃度増加に起因する血圧上昇との情報統合機構を解明することによって、血圧制御の脳内機構の全体像を明らかにする。
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研究実績の概要 |
高血圧症はそのほとんどが原因不明の本態性高血圧症である。脳による血圧制御は交感神経の活性化を介しているが、そのメカニズムについては不明な点が多い。血液-脳関門が欠損した感覚性脳室周囲器官(sCVOs)は、脳が体液情報を取得する場であり、その情報に基づいて血圧や水分・塩分欲求、尿量など体液恒常性維持に関わる様々な生理機能を制御している。本年度は我々自身の研究成果を中心にその全体像をまとめた総説論文(Noda & Matsuda, Proc. Jpn. Acad. Ser. B Phys. Biol. Sci., 2022)を発表した。 交感神経制御中枢と呼ばれる室傍核(PVN)や 頭側延髄腹外側野(RVLM)は、sCVOsから神経連絡のある下流の神経核であり、様々なシグナルが集約・統合される。PVNやRVLMは、交感神経の活動制御を通して主に血圧制御を行っている。これまでの研究から、sCVOsである脳弓下器官(SFO)および終板脈管器官(OVLT)からアンジオテンシンII(Ang II)と[Na+]上昇のシグナルがそれぞれPVNに伝達されているという結果を得ている。 また、肥満に伴い高血圧症を呈することが知られているが、高度の肥満状態では、血中のレプチン濃度が約10倍に上昇する。腹腔内投与によって同程度までレプチン濃度を上げると、2時間程をかけて血圧上昇が生じることが明らかになった。また、このレプチン投与に伴い、OVLTおよび視索前野(POA)、孤束核(NTS)などの脳領域において神経活動が亢進していることを明らかにした。 一方、近年、ミクログリア等の脳内免疫細胞の活性化(脳内炎症)が血圧上昇に関与している可能性について指摘され始めた。本研究では、sCVOsにおける脳内免疫細胞の活性化が血圧上昇の初発段階である可能性について検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
I. sCVOsにAng IIの受容体であるAT1a陽性の神経細胞が局在すること、血圧制御に関わるAng IIシグナルはSFOおよび OVLTにおいて受容されていることを確認している。一方、体液Na+濃度の上昇は、OVLTに存在するNaxチャネル陽性のグリア細胞が感知していることを明らかにしている。さらに、Ang IIとNa+シグナルは、血圧制御中枢と呼ばれる室傍核(PVN)において集約され、相加的な昇圧作用を示すことを明らかにしている。 II. ウイルスベクターを用いてAng IIの前駆体であるAngiotensinogen(Agt)を脳内で過剰発現させる手法を確立した。血圧制御中枢と呼ばれるPVNの神経細胞においてAgtを過剰発現させたところ、血圧が上昇する様子が観察された。 III. レプチンによる血圧上昇機構の解明:これまでにマウスにマイクログラムレベルのレプチンを投与すると分単位の急速な血圧上昇が誘導されることが報告されていたが、このレプチン濃度は生理的なレプチン濃度(ナノグラムレベル)に比べて非常に高濃度であった。そこで、マウスの脳室や腹腔内へ低濃度のレプチン投与を行ったところ、血圧が緩やかに、およそ2.5時間後にピークを迎えるように上昇することを見出した。遺伝子改変マウスを用いて脳内におけるレプチン受容体(LepR)の発現領域を探索したところ、孤束核(NTS)や視索前野(POA)などにおいて、c-FosおよびSTAT3のリン酸化が増加していることが分かった。 IV. ミノサイクリンによってAng IIによるミクログリアの活性化を抑制すると、血圧上昇が起こらないことを確認している。
このように、これまでの研究成果から脳が司る血圧制御機構の詳細が明らかになりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
I. Ang IIおよびNa+の相互作用機構の解明: sCVOsの神経細胞は体液中のAng IIおよびNa+濃度の上昇を感知して、交感神経制御中枢の活性化を介して血圧上昇を誘導する。Ang IIおよびNa+による血圧上昇シグナルは血圧制御中枢において統合されると考えられるが詳細は不明である。来年度は、血圧制御中枢の神経細胞に蛍光カルシウムインジケーターGCaMP6fを発現させ、GRINを装着した小型蛍光顕微鏡を用いてシングルセルレベルで神経細胞の活動を観察することによって、両シグナルが統合される仕組みを解析する。
II. 脳内におけるAng II産生機構の解明: Ang IIの受容体であるAT1aは脳内の様々な領域において発現している。Ang IIは一般的に末梢において産生され、脳内に自由に出入りできない。そのため、脳内のAT1aには脳内で産生されるAng IIが作用していると考えられるが、脳内でのAng IIの発現細胞や詳細な産生調節機構は不明である。遺伝子改変マウスを組み合わせて用いることによって、Ang IIの前駆体であるAngiotensinogenを様々な細胞種において欠損させたマウスを作成する。これらのマウスの血圧を測定することによって、脳内Ang IIが血圧制御に関与しているか検討する。
III. 感覚性脳室周囲器官の免疫細胞を介した血圧上昇機構の解明: 近年、脳内炎症が高血圧症に関与することが示唆されている。我々はsCVOsにおいてミクログリアの活性化が起きることが血圧上昇の原因であることを明らかにしつつある。本研究では、遺伝子改変マウスとレンチウイルスベクターを組み合わせて用いることによって、sCVOsの免疫細胞を人為的に活性化し、血圧上昇が起こるか検証する。また、そのときTNF-αなどの炎症性サイトカインが分泌されているか検証する。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A-: 研究領域の設定目的に照らして、概ね期待どおりの進展が認められるが、一部に遅れが認められる
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