研究課題
特別研究員奨励費
植物寄生線虫は非常に多様な作物に感染し、世界の農業生産に甚大な被害をもたらしている。線虫は植物の免疫機構を抑制して感染していると考えられるが、その機構は殆どわかっていない。線虫防除においては、抵抗性台木を利用する方法が環境負荷も少なく効果的であり、ナス科作物の栽培ではトルバムが唯一の抵抗性台木として使われている。しかし、国内にはトルバムに感染できる線虫が定着しており、農業現場で問題になりつつある。そこで本研究ではトルバムに感染できる線虫と、感染できない線虫とのゲノム比較をベースとして、線虫がトルバムを含めた植物の免疫を回避・抑制して感染する機構を分子レベルで解明する。
本年度までに、90個ほどの候補遺伝子から細胞膜免疫受容体、ならびに細胞内免疫受容体で誘導される免疫応答を抑えるネコブセンチュウエフェクターを網羅的に探索し、複数のエフェクターが免疫抑制に寄与することがわかってきた。これらの中には、パターン誘導免疫のみを抑制するエフェクターや、パターン誘導免疫とNLR誘導免疫を共に抑制するエフェクターが含まれていた。この結果は、線虫が異なる植物分子を標的とする複数のエフェクターを分泌することで、植物の多層的な免疫応答を抑制しながら感染していることを示唆している。これら免疫を強力に抑制するエフェクターについては、エフェクター遺伝子を発現するトランスジェニック植物を用いた感染実験系、あるいはウィルス誘導ジーンサイレンシングで線虫におけるエフェクター発現を抑制する感染実験系を用いて、エフェクターが線虫の感染に重要な役割を有するかを試験している。さらに、シロイヌナズナの根から作成したcDNAライブラリを用いた酵母ツーハイブリッドスクリーニングにより、これらのエフェクターが標的とする植物分子 (カルシウム結合タンパク質や転写因子など)を絞り込んだ。これらの標的タンパク質候補とエフェクターとの相互作用は植物体内での局在解析や共免疫沈降解析等、複数の方法を用いて確認を進めている。また、ネコブセンチュウはシロイヌナズナ(アブラナ科)だけでなく、トマトやトルバム(ナス科)など、幅広い植物種に寄生できる。そのため、今後は絞り込まれた標的因子が他の宿主植物でも共通しているのかなどにも着目して、エフェクターによる免疫抑制機構を明らかにしていく必要がある。以上のように、本研究ではゲノム・トランスクリプトーム解析をもとに免疫を強力に抑制するエフェクターを発見することに成功し、今後の線虫-植物間相互作用の分子レベルでの解析における基盤となる成果を得ることができた。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
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Frontiers in Plant Science
巻: 12 ページ: 680151-680151
10.3389/fpls.2021.680151
Front Plant Sci.
巻: 10 ページ: 1165-1165
10.3389/fpls.2019.01165
http://plantimmunity.riken.jp/