ハロアルミネート系イオン液体を電解液とし,負極に金属アルミニウムを用いるアルミニウム二次電池において,高性能な正極材料の開発が非常に重要な研究課題である。初年度において,ハロアルミネート系イオン液体中における硫黄の電気化学反応について調査し,硫黄の硫化物或いは塩化物が関与する反応が起きていることを明らかにした。これらの反応を正極反応として活用した場合,生成物である硫化物の低い導電性は充放電特性に大きな影響を与え,塩化物は電解液へ溶出するために充放電容量の減少を招くことが分かった。硫黄と複合化させる炭素材料に窒素ドープを行ったものを採用した結果,過電圧が低減され充放電特性に改善が見られた。塩化物が生成する電位範囲においても,酸化還元反応の効率が向上し,炭素材料の構造中に含まれる窒素サイトとの相互作用によって溶出が抑制されている可能性が示唆された。これらの結果より,アルミニウム二次電池用の硫黄正極を開発する上で,炭素材料への窒素ドープは有益な手法であることが明らかとなった。炭素材料と複合化させる硫黄材料についても検討を行った。単体硫黄に替わる材料として硫黄系ポリマーに着目し,ジチオールやアルケンといった化合物と単体硫黄を用いることでその合成を試みた。それらを活用した硫黄系正極の性能を評価したところ,硫黄系ポリマーの種類によっては過電圧が非常に小さくなることが確認でき,硫黄系活物質の改良によって正極性能の向上が可能であることが示唆された。これは,活性種となる硫黄元素がポリマーの構造中に取り込まれたことで,生成物や反応の活性化エネルギー等に変化が生じたことが要因ではないかと考えられる。ハロアルミネート系イオン液体を用いたアルミニウム二次電池において,硫黄系正極上における反応は特色あるものであり,本研究で得られた知見は今後の研究・開発に寄与し得るものである。
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