研究課題
特別研究員奨励費
高血糖においては糖化タンパク質(AGE)が蓄積し、受容体RAGEを介して糸球体硬化症などの「組織線維化」をともなう合併症を引き起こすことが知られている。しかしながら、RAGEの機能および生理的意義については未解明の点が多い状況である。申請者はこれまでにRAGEが認識する最小単位の構造を明らかにし、さらにこの構造をもつ内在性のコラーゲン架橋分子ピリジノリン(PYR)が新奇のRAGEリガンドであることを見出している。PYRはコラーゲン損傷により血中に遊離することから、RAGEの生理機能の一つは「コラーゲン損傷の認識」であると仮説を立てた。本研究はこの仮説の検証を目的として計画されたものである。
糖尿病などの高血糖状況下においては組織中に糖化タンパク質(AGEs)が蓄積し、受容体RAGEへの結合を介して糸球体硬化症などの「組織線維化」をともなう合併症をひきおこす。しかし、RAGE本来の機能、すなわちRAGEの生理的意義については不明の点が多い。一方、申請者はこれまでにRAGEの内因性リガンドとしてコラーゲン架橋分子ピリジノリン(PYR)を同定している。PYRはコラーゲン線維の分解により血中へ遊離する性質をもつことからRAGEの生理機能のひとつは「コラーゲン損傷の感知とその修復応答の誘導」であると予想された。本研究ではこの仮説の検証を目的としており、とくにコラーゲン修復応答のメカニズムとして広く知られる上皮間葉転換(EMT)に着目して解析を実施した。ウシアキレス腱の酸加水分解物を各種クロマトグラフィーに供し、PYRを単離した。ラット腎近位尿細管上皮細胞株NRK-52Eに対しPYRを作用させ、Ⅰ型コラーゲンの遺伝子発現量をreal-time PCRにより解析したところ、col1a1のmRNA発現量がPYR添加濃度依存的に増加した。一方この作用はRAGE阻害剤の共存により抑制されたことから、PYRによるコラーゲン修復応答はRAGEを介したものであることが示唆された。コラーゲン修復応答に対するEMTの関与について、同様にreal-time PCRにより検討した。その結果、PYRの添加によりEMTのマスターレギュレーターであるTGF-βの発現量の増加、および上皮系細胞マーカー(E-cadherin)の減少が認められた。以上の結果から、PYRがRAGEシグナル伝達を介してEMTを誘導し、コラーゲン修復を促進しうることが示された。さらに、こうしたRAGEの生理機能が、糖尿病環境下ではAGEsにより慢性的且つ過剰に活性化され、合併症発症に至るという疾患発症機序が提示された。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry
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