研究実績の概要 |
今年度は、左冠動脈結紮術によって作成した心不全モデルマウスの骨格筋線維化が増加するタイムコースを検証した。術後1, 3, 7, 14日目の骨格筋線維化をPicrosirius red染色によって評価したところ、術後3日目から有意に骨格筋線維化が増加することを明らかにした。さらに、骨格筋におけるタンパク発現量をウエスタンブロット法によって評価したところ、術後1日目のトランスフォーミング増殖因子(TGF)βおよびSmad2/3が増加していた。 次に、TGF-βの上流であるアンジオテンシンⅡに着目し、これを抑制することで骨格筋線維化を予防できるか検討した。アンジオテンシンⅡは心不全マウスの血中および骨格筋で増加することが報告されているため、本研究ではその抑制効果があるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(リシノプリル)を術直後から自由飲水によって投与した。術後14日目の心エコーの結果、ACE阻害薬の投与によって心重量および肺重量は有意に変化しなかった。また、骨格筋重量も有意に変化しなかった。血中のアンジオテンシンⅡ濃度は心不全マウスで有意に増加していたが、ACE阻害薬の投与によって有意に減少した。骨格筋の線維化はPicrosirius red染色および骨格筋のコラーゲンⅠのタンパク発現によって評価した。その結果、ACE阻害薬の投与によって心不全マウスと比較して有意に減少した。また、骨格筋におけるTGF-β、Smad2/3のタンパク発現は術後1, 3日目が抑制された。一方、骨格筋線維化が増加した術後1週目からACE阻害薬を投与しても、骨格筋線維化は改善しなかった。 術後14日目に各群の筋力(Grip strength)を比較してが、3群間で有意な差はなく、骨格筋線維化の増加が身体機能に与える影響を明らかにすることはできなかった。
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