研究実績の概要 |
本年度は、研究課題である「超音波法を用いた深筋膜の形態的・力学的特性の解明:人間の身体能力の開発に向けて」に関して、以下の研究を実施した。 解剖体12体12脚を対象に、近位から遠位にかけて異なる5部位(外側広筋の近位・中間位・遠位、膝蓋骨の近位端、大腿骨-脛骨間)における腸脛靭帯のサンプルを取得した。腸脛靭帯の厚さを、電子ノギスを用いて測定した。また、伸長試験機を用いて腸脛靭帯の弾性特性であるスティフネスを計測した。腸脛靭帯は外側広筋上の3部位(近位・中間位・遠位)で他の部位(膝蓋骨の近位端、大腿骨-脛骨間)と比較して薄く、高い弾性特性を持つことが明らかになった。また、腸脛靭帯の弾性特性が低い部位と高い部位は隣接しており、そこは腸脛靭帯炎などのスポーツ障害が好発する箇所と対応することが示された。これらの結果から、腸脛靭帯は部位によって厚さや弾性特性が異なり、その差異は障害発生の一因となることが示唆された。また、成人男性12名の右脚を対象に、腸脛靭帯の弾性特性を上記の解剖研究と同様の部位について測定した。測定は柔組織の硬さを評価できる超音波エラストグラフィを用いて、股関節3角度(0,40,90度)と膝関節3角度(0,25,90度)を組み合わせた計9姿位にて実施した。腸脛靭帯の弾性特性は、解剖体を用いた研究結果と同様に、近位部と遠位部で異なった。腸脛靭帯は股関節伸展位かつ、膝関節屈曲位で最も硬く、股関節屈曲位かつ膝関節伸展位で最も柔らかかった。加えて、膝関節よりも股関節の角度を変化させることで、腸脛靭帯の弾性特性がより顕著に変化することが明らかになった。人間は他の類人猿と比較して、股関節伸展位にて二足歩行を行うことが報告されている。股関節伸展位にて腸脛靭帯の弾性が増加することで、遊脚側の骨盤の下制を抑制し、歩行時の骨盤の安定性を高めていることが示唆された。
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