研究実績の概要 |
本課題では有機系・無機系物質を対象として、放射光X線を用いた常圧・高圧下の精密構造解析及び電子密度解析を行った。申請者が新たに提案しているコア差フーリエ合成(CDFS)法を用いた新規電子密度解析手法[S. Kitou et al., Phys. Rev. Lett. 199, 065701 (2017)]を用いることで、様々な物質中の電子軌道状態の解明を行った。さらに、複数単結晶試料を用いた高圧下X線回折実験を行うことで、高圧下単結晶構造解析手法の確立を試みた。常圧下及び高圧下のX線回折実験はそれぞれ大型放射光施設SPring-8のBL02B1及びBL10XUビームラインで行った。 ペロブスカイト型酸化物YTiO3における3d1軌道に対応した蝶々型の価電子密度分布の観測に成功した[S. Kitou et al., Phys. Rev. Research 2, 033503 (2020)]。また、原子サイト上に局在する原子軌道とは対照的に、分子上に空間的に広がった分子軌道の直接観測を行った。比較的単純な結晶構造を有するダイヤモンド、C60フラーレン、(MV)I2、(TMTTF)2Xにおける結合電子の定量的な評価に成功しただけでなく[S. Kitou et al., Crystals 10, 998 (2020)]、近年、バルクディラック電子系として注目を集めるα-(BEDT-TTF)2I3とα-(BETS)2I3のS/Se置換効果を電子密度レベルで観測した[S. Kitou et al., Phys. Rev. B 103, 035135 (2021)]。 二次元層状物質VSe2の複数単結晶を用いた高圧下X線回折実験を行った。その結果、超伝導を示す5GPa以上で相転移に伴う超格子反射の出現とピークの分裂が確認された。今後はこれらのデータを用いて結晶構造の解明を目指す。
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