研究課題
特別研究員奨励費
生体内の異なる階層・タイムスケールを繋ぐ数理モデルを構築し、細胞間相互作用の強弱や細胞の性質の変化を比較することで、組織の恒常性を破綻させる要因を定量的に明らかにする。まず、造血幹細胞の加齢に伴い変容する造血組織を再現する確率シミュレータの構築し、細胞分化での細胞個体の振る舞いから造血組織の変容を理解する。次に、骨代謝の履歴から骨量変動を計算する積分方程式による数理モデルの構築し、骨量代謝の細胞間相互作用を表すパラメータを比較することで骨組織の変容を理解する。構築した数理モデルから他の組織で汎用性のある、細胞と組織をつなぐ理論を構築する。
造血幹細胞の分化モデルを解明することは、造血のバランスの崩れに由来する疾患への理解を加速させると期待できる。構築した数理モデルを用いて、各細胞集団の分化率や自己複製率、死亡率などのモデル中のパラメータの値を推定した。このとき、移植されたマウスごとの個体差を考慮し、非線形混合効果モデルの手法を取り入れ、確率近似期待値最大化(stochastic approximation expectation maximization, SAEM)アルゴリズムによって集団が持つパラメータの値を推定し、経験的ベイズ推定量によって表される各個体のパラメータ分布の最頻値を得ることができた。この定量的データ解析の結果、骨髄球のみを産生する経路が骨髄球産生に大きく寄与し、かつ、老化に伴って骨髄球産生が多くなることを示した。この結果は、これまでに報告されているミエロイドシフト(血球の産生が骨髄球に偏ること)を初めて定量的に示したものである。骨組織は骨形成を行う骨芽細胞と骨吸収を行う破骨細胞が相互に作用し合うことで維持される。2つの細胞群の相互作用が加齢や重力変化などの摂動によってどのように変化するかを解明することで、骨関連疾患の予測と予防が実現できると期待できる。骨代謝を骨芽細胞数と破骨細胞数から計算される再生方程式として、骨量の経年変化を記述する数理モデルを構築した。このモデルを用いて、マウスで計測した52週にわたる骨代謝マーカーの変動と、人工的に重力をかけられたマウスで取得したデータを同時に解析し、骨量変動を説明し予測することに成功した。この結果は、初めて加齢と重力変化によって変わる骨量を理論的・定量的に記述することに成功したものである。以上の2つの組織の変化を記述する数理モデル研究によって、細胞群の動態から組織の変化を記述・予測する定量的なデータ解析の枠組みが整ったと言える。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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PLoS Biology
巻: 18(7) 号: 7 ページ: 3000562-3000562
10.1371/journal.pbio.3000562
120006872724