研究実績の概要 |
ヘテロ原子によって官能基化された不飽和結合間における、貴金属触媒や卑金属触媒との反応を各種検討した。その結果、申請者は二つの新規環化反応(前年度と併せると四つ)を見出すことが出来た。1つ目は、「パラジウム触媒によるβ-オキシアクリル酸エステルとアルキン間における転位を伴う環化異性化反応」である。本反応のメカニズムについては、計画に記載した通り、計算化学者との共同研究によって明らかにしているところである。2つ目の反応は、「イリジウム触媒によるエノールエーテルとシリルアルキン間における環化異性化反応」である(J. Org. Chem. 2020, 85, 10198.)。本反応のメカニズムは、分析化学者との共同研究により明らかにした。
一方、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)は、エピジェネティックな遺伝子発現に関与する酵素であるため、HDACの阻害薬は、HDACを標的分子とする抗がん剤として近年注目されている。中でも、HDACアイソザイム(HDAC1~11)選択的な阻害薬は、より副作用の少ない抗がん剤となることが期待されている。Abexinostatは、HDAC1に対してKi=7nMと高い阻害活性を示すが、他のアイソザイムであるHDAC2,3,6,10に対しても同様の高い阻害活性を示すという問題があった。また、Abexinostatは合成法の制約から、ヘテロ環上に置換基を持つ誘導体の活性評価が不十分であった。そのような背景から、ヘテロ環上に置換基を持つAbexinostat誘導体の合成を申請者の開発したヘテロ環合成法を用いて検討しているところである。今後は活性評価を行い、アイソザイム選択性を調べる予定である。
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