研究課題
特別研究員奨励費
始生代(40-25億年前)は生物進化における初期段階として重要な時代であるが、生物を取り巻く環境(海水中の酸素濃度など)に関してまだ制約できていない。これを理解するために本研究では現生の生物が活動を維持するために用いる生体必須元素のうち、リンとマンガンに着目した。リンは一般に海洋表層の一次生産を規定する元素として、マンガンは酸化的環境の指標として用いられる。従って、始生代におけるこれらの挙動を理解することで、当時の生物種やそれらを取り巻く環境を推定し、新たな知見を得られることが期待できる。
地球生命の進化を考える上で、地球表層環境における生体必須元素の挙動を理解することは必須である。この中にはリンとマンガンのように海洋や大気ではなく岩石に多く保存されているものがあり、これらの元素の岩石から海洋、そして生命圏までの挙動はほとんど理解されていない。そこで本研究は現世と太古代における海底熱水活動に伴うマンガンとリンの挙動について理解することを目的とした。まず、秋田県北鹿地域に産する1200万年前に形成したマンガン酸化物の成因と微生物の形成に対する関与を理解するために、地質調査と採取した岩石サンプルからマンガン鉱物の種類や化学組成などを走査型電子顕微鏡やラマン分光分析を用いて明らかにした。またマンガン酸化物と炭素からなるコロフォーム構造を発見した。これは過去に報告例がなく、透過型電子顕微鏡によるナノスケールの観察結果などから、マンガンをエネルギー源とする微生物マットの痕跡であると結論づけた。これらの成果はOre Geology Reviews誌にて報告した。次に西オーストラリア・ピルバラで見られる34.6億年前ごろに形成したApex Basaltを調査した。Apex Basaltは当時の海洋底を構成していた玄武岩であるとともに、同時期に起こった海底熱水活動の影響を受けている。今回は形成後の変質や風化の影響の少ないドリルコア(ABDP#1)を用いて、リンとマンガンの元素濃度プロファイルや鉱物観察を踏まえて海底熱水活動に伴う両元素の挙動を研究した。その結果、リンとマンガン濃度の減少と熱水変質の度合いは相関していることがわかった。また鉱物種の変化もこの結果を支持した。本研究で初めて、当時の海底熱水活動がマンガン・リンの供給源となりうることを明らかにした。本研究によって、海底熱水活動に伴うマンガンとリンの岩石から海洋、そして生命圏への挙動を明らかにした。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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Ore Geology Reviews
巻: 121 ページ: 103539-103539
10.1016/j.oregeorev.2020.103539