研究課題
特別研究員奨励費
本研究では,生体識別システムを数理モデル化し,情報理論的な手法を用いてシステムの最適性能を追求する.個体を識別する過程や個体の生体情報をデータベースに登録する過程では,スキャン環境や回路内の電力などのノイズが発生するため,システムが安全に取り扱える生体情報数には限界がある.そこで,データベースに登録される生体データ(テンプレート)を制約することでメモリを効率良く使用し,個体の固有特徴情報が漏洩する情報量を限りなく小さくする仕組みを考慮して,各個体を正しく検出できる生体情報数の理論限界を明らかにする.
昨年度の研究に続き,二つの秘密鍵が同時に存在するシステムに対し,秘密鍵同士に一定の相関を許す一般的なケースを想定し,システムの利便性,信頼性,ストレージの効率化,及び安全性の理論的限界の関係性を明らかにした.結果として,ユーザ数,交付鍵,生成鍵のレートはトレードオフの関係にあり,また,プライバシーのレートの下限はユーザ数のレートのみに依存するが,ストレージのレートの下限はユーザ数及び与えられる鍵のレートによって,変動することが分かった.ここまでの議論では,生体データに対してあらかじめ量子化の操作が行われていることを想定し,情報源と通信路は離散である下で,システムの最適性能を導出した.しかし,一般に,生体データ(信号)の特徴ベクトルは連続値で表現される.そこで,より現実的な環境のモデルに近づけるため,情報源と通信路が連続的な値を出力するガウス分布に従うことを仮定し,システムの性能をより計算可能な形式で特徴づける.この解析から,ある一定のストレージレートの下で,高い秘密鍵のレートと小さな情報漏洩のレートを同時に達成することが困難であることが分かった.その主な理由は,秘密鍵の利得と情報漏洩の量にトレードオフの関係があることから,以下のように説明できる.秘密鍵の利得を大きくするには,登録過程と識別過程において,生体情報の系列に加わる雑音をなるべく少なくすることが好ましいが,情報漏洩が大きくなる傾向にある.一方で,情報漏洩を小さく抑えるためには,登録過程における生体情報の系列に加わる雑音をある程度保っておきながら,識別過程の雑音をできるだけ除去する必要があるが,この操作によって,秘密鍵の利得が落ちてしまう.この結論から,高い秘密鍵のレートを実現するか少ない情報漏洩を重視するかによって,異なるアプローチで生体識別システムを設計する必要があることが示唆される.
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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IEICE Transactions on Fundamentals of Electronics, Communications and Computer Sciences
巻: E104.A 号: 1 ページ: 283-294
10.1587/transfun.2020EAP0001
130007964843