研究開始時の研究の概要 |
分子内に複数の金属中心を有する多核錯体は,金属間の相互作用によって単核錯体にはない反応性を示すため,新たな均一系触媒としての応用が期待される.一方,多核錯体の多くは既存の構造をテンプレートとした合成手法に限られており,新しい合成手法の開発が求められている.本研究では,新たな触媒合成指針として,配位子骨格の変形を利用した二核触媒の合成手法を確立し,得られる二核錯体を用いた新規触媒反応の開発を行う.
|
研究実績の概要 |
アルキン含有ビスホスフィン配位子を用いた錯形成で得られる遷移金属錯体の反応性および形成機構に関する研究を行なった。主な成果の概要は以下のとおりである。 (1) アルキン含有配位子とイリジウムとの錯形成挙動を調査し、金属-金属結合を有するブタジエン-1,4-ジイル二核錯体が二量化を伴い生成することを見出した。種々の単原子カチオンとの反応によって二核錯体の金属ー金属間の結合距離が変化することを見出し,その結合距離が適用するカチオンの種類と密接に関連していることをDFT計算により明らかにした. (2) アルキン含有配位子とロジウムとの錯形成では,上記(1)の場合とは異なりシクロブタジエン二核錯体が生成することをこれまでに見出している.用いる金属の種類によって生成物が異なる理由を解明するため,各二核錯体の形成機構を調査した.二つの経路に共通した鍵中間体の観測,同定に成功し,用いる金属原子のd軌道のエネルギー準位の高さに応じて異なる二核錯体が得られることをDFT計算により明らかにした. (3) 支持配位子までのリンカーを伸長したアルキン配位子とイリジウムとの錯形成反応により,上記(1)とは異なる配座を有する1,3-ブタジエン-1,4-ジイル二核錯体が得られることを見出し,その反応性を調査した.本錯体はトランス効果によって(1)の場合に比べて置換活性が高く,配位子置換反応を含む二核錯体の種々の誘導化に成功した.
|