研究実績の概要 |
本課題では200 ℃以下の低温排熱利用が可能な化学蓄熱材の開発を目指し、次の3つの研究を遂行した。 1) 前年度に引き続き、新規の候補材料として硫酸イットリウムに着目し、脱水・水和反応による蓄放熱性能を検討した。多段的に進行する脱水・水和過程における主な生成相としては、前年度に報告した硫酸イットリウムの8水和物、3水和物に加えて、0~3の間で不定比の水和数をとり得る菱面体晶相の存在を新たに確認した。菱面体晶相は、結晶内細孔への水分子の挿入・脱離という硫酸塩には珍しい反応機構に基づいて水和・脱水し、特に水和数が0~2間の挿入・脱離反応が速やかに進行する。0~2間の反応の蓄熱密度を示差走査熱量計によって評価し、299 kJ/kgであると導出した。これは既存材料である硫酸カルシウム(240 kJ/kg)よりも大きい。以上のことから、菱面体晶相の水和・脱水(水和数0~2)が反応速度と蓄熱密度の両面に優れる有望な反応系であることを同定した。 2) 新たな候補材料として、硫酸イットリウムの菱面体晶相と結晶構造が同じ9種の金属硫酸塩M2(SO4)3 (M = Sc, Yb, Er, Gd, Dy, Al, Ga, Fe, In)の脱水・水和反応挙動を調査した。結果、いずれの硫酸塩の反応も150 ℃以下で進行し蓄放熱動作が可能であることを実証したが、硫酸イットリウムよりも高い蓄熱密度を期待できる材料を見出すことはできなかった。 3) 当グループが過去に見出した蓄熱材料である硫酸ランタンの伝熱性をレーザーフラッシュ法で評価した。硫酸ランタンは平板状結晶粒が積層した材料組織を有し、平板面内方向の熱拡散率は面垂直方向と比べて1.7倍であり、伝熱性に異方性があることを確認した。これは、材料組織制御による伝熱性向上の可能性を示唆しており、今後の新たな蓄熱材の開発指針となり得るものであると考える。
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