研究実績の概要 |
スピントロニクス分野において、力学回転に付随する有効磁場と電子スピンの結合を利用した力学的スピン流生成法が注目を浴びている。一方で、スピン軌道相互作用(SOI)の効果も無視できないという指摘がされている。スピン流の力学駆動を実現するためには、SOIの効果も含めたスピン流生成機構の解明が不可欠である。 本研究ではまず、空間反転対称性の破れた系に現れるラシュバ型SOIに着目した動的格子歪みによるスピン流生成機構について解析を行った。その結果、格子歪みからスピン流が直接生成される新奇の機構を見出した。せん断波を印加すると電子スピンの偏極方向と運動方向が平行なヘリシティ流が生じる。これは従来の方法では生成できない新奇のスピン流である。これらの結果は学術雑誌への投稿を進めている。 さらに東京大学の実験グループと重金属・強磁性金属2層膜の面内磁場下における表面弾性波による直流電圧について共同研究を行い、特異な面内磁場依存性が現れることが分かった。その原理として新奇のスピン流生成機構の可能性を理論的に提案した(T. Kawada, M. Kawaguchi, T. Funato, H. Kohno, and M. Hayashi, Sci. Adv. 2021)。 また、自然酸化銅において電子のせん断流に伴う渦運動とスピンの結合による電流・スピン流変換の増大が指摘されているが、微視的な導出がされていない点や銅イオンのSOIが無視できない点など疑問点が残る。本研究はスピン軌道不純物が不均一に分布している自由電子モデルを考え、電場に対するスピン流の線形応答の解析を行った。その結果、SOIによる電子の渦運動とスピンの結合が生じること、不均質系の方が効率的にスピン流生成され得ることが分かった(T. Funato and H. Kohno, PRB 2020)。
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