研究課題
特別研究員奨励費
アルツハイマー病(AD)は、進行性の神経変性疾患である。脳マクロファージであるミクログリアは、ADの原因物質であるアミロイドβタンパク質(Aβ)の除去機能を有しており、ミクログリアの脳内移植がADの根本的治療法へと繋がる可能性がある。しかし、この移植療法の臨床応用を考えると、ヒトミクログリアの調製・調達は困難であることから、ミクログリアの代替となる幹細胞ソースとして末梢血造血幹細胞(PBSC)および人工多能性幹(iPS)細胞に着目した。本研究では、PBSCおよびiPS細胞から分化誘導したミクログリア様細胞の機能評価を行い、さらにADモデルマウスへの移植により、AD細胞治療戦略を評価する。
In vitro実験系において、末梢血中の造血幹細胞数を増やすための薬剤や分化誘導に用いるサイトカインの種類の検討を行い、末梢血造血幹細胞から効率良くミクログリア様細胞分化誘導する手法を確立した。次に、in vivo実験系において、上記の手法で調製した末梢血造血幹細胞由来ミクログリア様(PBDML)細胞をADモデルマウスの海馬内に直接投与し、移植細胞の脳内動態およびAD病態への影響を調べた。その結果、移植後、日数依存的にPBDML細胞の拡散が見られ、特に移植後36日目において、野生型マウスと比べてADモデルマウスで細胞間距離の有意な増加が見られた。これは以前の我々の研究から、移植細胞がAβプラークに指向性をもって移動していることが示唆された。さらに、海馬内Aβプラークの体積および数の減少、炎症性サイトカイン産生量の減少、髄鞘の再構築化が見られた。最後に、新規物体認識試験およびモーリス水迷路を用いてマウスの認知機能を評価したところ、PBDML細胞を移植したADモデルマウスの認知機能障害の改善が見られた。以上の結果より、PBDML細胞は新規AD細胞治療に用いるのに有用な細胞であり、その作用機序としてAβ病態だけでなく、脳内環境全体に影響を及ぼすことで治療効果が得られることが示唆された。当研究室ではこれまでにiPS細胞からミクログリアの発生起源である原始マクロファージへの分化誘導法を確立している。そこで現在、iPS細胞由来原始マクロファージをADモデルマウスの海馬内に移植し、移植細胞の脳内での生存期間やAD病態への影響を調べているところである。また、今後認知機能障害への治療効果を解析し、前述したPBDML細胞と移植細胞としての有用性を比較する予定である。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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J. Alzheimers Dis.
巻: 73 (1) 号: 1 ページ: 413-429
10.3233/jad-190974