研究課題
特別研究員奨励費
現在の素粒子物理学では、標準模型がほとんどの実験結果を説明できている一方で、暗黒物質や階層性などの説明できない問題も残っており、より高いエネルギースケールに新物理が存在することが期待されている。このような新物理の兆候を探る実験として、電子陽電子衝突により大量のB中間子を生成するBelle II実験がある。B中間子の稀な崩壊過程を観測すると、新粒子が量子ループに寄与する微弱な効果を標準模型からのずれとして捉えることができる。本研究では、特に理論的な不定性も小さく精密測定に適した崩壊過程である3つの中性K中間子への崩壊に着目し、この崩壊過程のCP非対称度を測定することで新物理を探索する。
本研究では、中性B中間子のB0→KS KS KS崩壊過程(KSは短寿命中性K中間子)における時間依存CP非対称度の測定によって、CP非対称な新物理を探索する。測定は以下の手順で行う。(1)電子陽電子衝突によって対生成したB中間子の崩壊生成物を検出し、一方が信号崩壊を起こした事象を選別する。(2)他方のB中間子の崩壊生成物からそのフレーバー(正B中間子か、反B中間子か)を識別する。(3)B中間子対の崩壊点位置から崩壊時間差を測定する。(4)フレーバー・崩壊時間差の分布へのフィットによりCP非対称度を推定する。本年度は、多変量解析を用いて特徴量を抽出し信号事象を効率よく選別する手法を開発した。KSの崩壊の運動学的な特徴と、終状態粒子の運動量の空間分布の特徴を利用して、信号事象を背景事象から識別する。選別後にはB中間子の不変質量等へのフィットによって信号事象数と事象ごとの信号確率を推定する手法を確立した。また、崩壊時間差測定の応答関数をシミュレーションに基づいて構築し、これを取り入れたCP非対称度推定プログラムを実装した。この応答関数の妥当性を検証するために、荷電B中間子(B+)の崩壊に着目した。信号崩壊と運動学的によく似ているB+→KS KS K+崩壊(K+は荷電K中間子)を再構成し、K+を無視しながらB中間子の崩壊点位置を測定することで、信号崩壊の崩壊点分解能を再現できることを示した。信号崩壊に比べて事象数が3倍多いB+の崩壊を用いることで、より精度よく妥当性を検証することができた。プログラムの動作検証や系統誤差の評価を行ったのち、2021年夏までに取得したデータについてこれを適用し、先行研究や理論による予言値と無矛盾な測定結果を得た。その後、2022年までに取得したデータを含め統計量を倍増した解析が済んでおり、結果を国際学術論文誌に投稿予定である。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
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Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A: Accelerators, Spectrometers, Detectors and Associated Equipment
巻: 972 ページ: 164129-164129
10.1016/j.nima.2020.164129
巻: 982 ページ: 164580-164580
10.1016/j.nima.2020.164580