研究課題
特別研究員奨励費
腐食によって生じる損失は世界的に年間400兆円にのぼり、腐食によるインフラ破壊事故は社会を危険に導く。このような事故を未然に防止するために、機械作用と化学反応が複雑に絡み合った腐食環境下における材料劣化の予測と高強度・高耐腐食性に優れた材料の設計が強く望まれている。そこで本研究では、申請者が端緒を築いた「化学反応を含む破壊現象の理論的解明という新しい研究分野」をさらに発展させ、「化学反応を含む材料破壊の理論的学理」を確立する。さらに高耐腐食性・高強度を有する革新的材料の設計指針を導出するため、(A)機械作用・ (B)化学反応及び(C)材料組織が複雑に絡み合った多重要因の相互作用を明らかにする。
これまで化学反応を含む材料破壊のシミュレーション手法を、本年度さらに発展させ、材料加工分野に拡張した。Zr合金は優れた耐食性及び低熱膨張率を有するため、宇宙・航空及び化学工業分野の高温環境下における構造材料として使用されている。しかし、高温かつ水蒸気環境ではZr合金が酸化を起こし、大量のH2分子と熱を放出することによって致命的な破壊につながることが問題となっている。これに対して、Zr合金の酸化を防ぐために物理蒸着法(PVD)を用い、CrをZr合金の表面にコーティングする技術が活用されている。高い接合強度を求めるためには、Cr原子がZr基板に侵入することによってZr-Crが固溶する層の形成が望ましい。しかし、実験的には、原子レベルでのCr原子の侵入プロセスのその場観察は困難であることから、分子動力学シミュレーションの活用が有効である。そこで、反応力場に基づく分子動力学法に基づくPVDシミュレーションを可能とし、Zr基板上においてCrの運動エネルギーがCrの侵入プロセスに与える影響を検討した。Cr原子の運動エネルギーがそれぞれ10 eV、20 eV、30 eV、40 eV、50 eV、100 eVのシミュレーションを行なった。照射速度はCr原子の質量と運動エネルギーから算出した。シミュレーションの結果、Crの運動エネルギーが10 eVの時、CrはZr基板に侵入しないことがわかった。次に、Crの運動エネルギーが20 eVと30 eVの時、Cr原子はZr基板の表面から1層目に侵入した。さらにCrの運動エネルギーが40 eV、50 eV、100 eVの時、CrはそれぞれZr基板の2層目、3層目と5層目に侵入した。これより、運動エネルギーが20 eV以下では、CrはZr基板の内部に侵入しないため、接合強度を向上するには、20 eV以上の照射エネルギーが必要であることが明らかにされた。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
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