研究課題
特別研究員奨励費
ヘム酵素の一種であるシトクロムP450は常温・常圧下で強固なsp3C-H結合を直接水酸化するため、環境調和型のバイオ触媒として期待される。その中でも巨大菌由来のP450BM3は還元系と一体化した複合型酵素であり、ドメイン間での高効率な電子伝達が可能なため、極めて高い触媒活性を示す。しかし化学的に不活性な有機小分子(メタン、エタン等)の効率的な反応は達成されていない。これらの不活性分子に対する反応性を向上させるには、従来の変異導入だけでなく、活性中心となるヘム自体の反応性を改変する必要がある。そこで本研究では活性中心であるヘムを合成金属錯体に置換することでP450BM3の触媒活性の向上を目指す。
本申請課題では反応中心であるヘム補因子を合成金属錯体に置換することによるP450BM3の高機能化を目標とした.前年度の検討ではマンガンプロトポルフィリンIX結合型P450BM3(Mn-BM3)の高活性な変異体I401Pを発見した.そこで本年度はこのI401P変異体を起点とし,高機能化に向けた変異体の検討を行った.ラジカルクロック基質を用いた検討により,F87A変異の導入によって反応中間体であるアルキルラジカル種を長寿命化することを発見した.この結果は,ヘム上部に位置する87番目のフェニルアラニンが、立体障害の低いアラニンに置換されることによって,反応中間体のアルキルラジカル種に対する空間的な制御が緩和されたことによるものだと推測される.アルキルラジカル種は種々のC-H結合官能基化反応の中間体として知られ,その長寿命化を促進するF87A変異体を用いることにより,Mn-BM3による種々の非天然反応への展開が期待できる.前年度に引き続き,触媒サイクルの律速段階を調査するために速度論的同位体効果(KIE)の測定を行った.前年度の検討では,①「非競合試験」と,②「分子間競合試験」を行い,いずれの実験においてもKIEは観測されないことが確認された.そこで本年度の検討では,③等価反応点の重水素化基質を用いて反応を行い生成物比から分子内競合を求める「分子内競合試験」を実施した.その結果,野生型(ヘム結合型)P450BM3を用いた場合とMn-BM3を用いた場合のいずれにおいても大きな分子内KIEが観測された.①,②,③の結果から,Mn-BM3による水素原子引抜き過程は十分素早く進行しており,触媒サイクルの律速ではないことが推定される.したがって,水素原子引抜き以外の反応過程(例えば,基質分子のタンパク質に対する結合過程,酸化活性種の生成過程)が触媒サイクルの律速であることが推定される.
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件)
ACS Catalysis
巻: -
Angew. Chem. Int. Ed.
巻: 59 号: 19 ページ: 7611-7618
10.1002/anie.201913407
Angew. Chem.
巻: 132 号: 19 ページ: 7681-7689
10.1002/ange.201913407