研究課題/領域番号 |
19J22014
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分37030:ケミカルバイオロジー関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
梶原 啓司 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2021年度)
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配分額 *注記 |
3,100千円 (直接経費: 3,100千円)
2021年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2020年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2019年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
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キーワード | 超耐光性 / 脂肪滴 / 脂肪酸代謝 / 蛍光脂肪酸 / 超解像イメージング / マルチカラーイメージング / STED / マルチカラー |
研究開始時の研究の概要 |
オルガネラ間相互作用の追跡は,病態解明や医薬品開発の観点から重要な研究課題である.この実現には,タイムラプスでの3D-STEDマルチカラーイメージングが求められる.そこで,新たな分子ツールとして,様々な波長域に対応した超耐光性オルガネラ染色プローブを開発する.具体的には,電子受容性ラダーπ骨格に電子供与性アミノ基を導入した超耐光性オルガネラ染色プローブを創製する.それらのオルガネラ局在能を検証し,超解像イメージングを実現する.特に,オートファジーに関連する重要なオルガネラとして,脂肪滴,小胞体,ミトコンドリアに着目し,オルガネラ間の膜ダイナミクスを追跡することで,細胞機能の解明が期待出来る.
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研究実績の概要 |
本研究では,超解像マルチカラーイメージングを指向したオルガネラ特異的な超耐光性蛍光プローブと,単一プローブでのマルチカラーイメージングを指向した蛍光プローブの開発を目的としている.昨年度までに,脂質代謝において重要な役割を果たす脂肪滴に着目し,超耐光性脂肪滴蛍光プローブLAQ1を開発してきた.また,多様なオルガネラが関与する脂肪酸代謝を可視化するための環境応答性蛍光脂肪酸AP-C12を開発してきた. 本年度は,①LAQ1の性能評価,②AP-C12の性能評価の2つについて検討した.①について,3T3L1から分化誘導した脂肪細胞をLAQ1で染色し,フォルスコリンと IBMX を添加して脂肪分解を誘導した直後から12時間繰り返し共焦点像を取得し続けたところ,脂肪滴が分解されて収縮する様子や脂肪分解で生成した脂肪酸が再利用されて新たに微小な脂肪滴が生成する様子を可視化することに成功した.このように脂肪分解における一連の脂肪滴の動態を長時間追跡したのは初めての例であり,LAQ1の有用性を示すことができた.②について,脂肪酸代謝に影響を与える化合物を添加し,共焦点蛍光イメージングにおける細胞の染色パターンを評価したところ,AP-C12が天然の脂肪酸と同じように,細胞内で小胞体や脂肪滴,ミトコンドリアを経由して代謝されることを証明することに成功した.また,AP-C12の環境応答性を利用して,単一の蛍光プローブで脂肪酸代謝産物の細胞内分布を定量的に評価できるシステムの確立に成功した.さらに,オートファジーに影響を与える条件下で培養した細胞を染色し,共焦点蛍光イメージングを行ったところ,オートファジーにおける脂肪酸の動きを可視化することに成功した.従来の蛍光脂肪酸では,単一の蛍光脂肪酸でオートファジーを観察することが困難であり,この実験結果はAP-C12の有用性を示すものであるといえる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,超解像マルチカラーイメージングを実現するために,オルガネラ特異的な超耐光性蛍光プローブや,マルチカラー蛍光プローブの開発,細胞を使った性能評価に取り組んできた.これまでに,脂質代謝において重要な役割を果たす脂肪滴に着目し,超耐光性脂肪滴蛍光プローブを開発してきた.また,多様なオルガネラが関与する脂肪酸代謝を可視化するための環境応答性蛍光脂肪酸を開発してきた. 超耐光性脂肪滴蛍光プローブの開発に関しては,これまでに平面固定化した[1]ベンゾチエノ[3,2-b][1]ベンゾチオフェン-S,Sジオキシドを基本骨格とした分子を合成し,この分子が優れた耐光性と高い脂肪滴特異性,膜透過性といった超耐光性脂肪滴染色剤として優れた性質を示すことを明らかにした.さらに,この分子 がSTEDイメージングでの極微小な脂肪滴の可視化に適用可能である点や,市販のオルガネラ染色剤とのマルチカラーイメージングにも適用可能である点,微小な脂肪滴の動態の長時間にわたるモニタリングを可能にする点を実証し,従来の脂肪滴染色剤に対する優位性を示すことに成功した.これらの成果に関してまとめた論文を投稿し,受理された (ACS Materials Lett., 2021, 3, 42-49.). 環境応答性蛍光脂肪酸の開発に関しては,これまでに3a-アザピレン-4-オンを用いた脂肪酸誘導体を開発し,この分子が細胞内で天然の脂肪酸と同様の代謝経路で代謝され,かつ代謝産物の細胞内分布を色の違いとして可視化できることを示してきた.さらに,この脂肪酸誘導体を用いて,従来の分子ツールでは可視化することが困難なオートファジーにおける脂肪酸の動きの可視化に成功した.こちらの研究成果に関しても,論文を投稿できる段階まで到達しており,順調に研究課題を遂行できていると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
タイムラプスでの3D-超解像イメージングには,長時間光を照射しても褪色しない優れた耐光性を有する蛍光プローブが必要となる.また,マルチカラーでのイメージングには,各色素からの蛍光シグナルを独立して検出する必要がある.そのため,様々な波長域に対応した超耐光性オルガネラ染色プローブが求められる.そこで今後は,電子受容性のSO2やP(O)Phで架橋したπ共役骨格を基本骨格とし,これに電子供与性のアミノ基を導入した超耐光性オルガネラ蛍光プローブの分子設計に,小胞体やミトコンドリアへの集積を誘起する官能基を組み込むことで,様々な波長域に対応した超耐光性小胞体(ミトコンドリア)蛍光プローブを開発する.そして,開発した各種プローブを用いてマルチカラー超解像イメージングを行い,最適なプローブの組み合わせを探る.最後に,オートファジーにおける各オルガネラ間の相互作用を,タイムラプスでの3D-マルチカラー超解像イメージングで観察する. また,近年脂肪滴と他のオルガネラの相互作用だけでなく,脂肪滴内の脂質の組成と脂肪滴機能との関連が注目されている.しかし,従来の分子ツールではわずかな脂質の組成の違いを評価できなかった.これに対し,開発した超耐光性脂肪滴蛍光プローブについて,わずかな環境の変化でも蛍光寿命が変化することを見出した.本年度は,これらの脂肪滴蛍光プローブを用いたFLIMを行い,脂肪滴内の組成の評価を目指す.まず,脂肪滴内の組成を変化させた細胞を用いて,蛍光寿命の違いを評価する.そして,オートファジー等における脂肪滴内の脂質の組成の変化をFLIMで追跡し,脂肪滴内の組成とその機能の関連を可視化する. さらに,開発した環境応答性蛍光脂肪酸を用いて,オートファジーに関与する化合物を添加した際の,この蛍光脂肪酸の染色パターンを分析し,オートファジーと脂肪酸の挙動の関連を解明する.
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