研究課題/領域番号 |
19J40303
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分61010:知覚情報処理関連
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研究機関 | 国立情報学研究所 |
研究代表者 |
島野 美保子 国立情報学研究所, コンテンツ科学研究系, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2021年度)
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配分額 *注記 |
5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2020年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2019年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 顕微鏡 / 散乱光 / 透過光 / 散乱角度 / コンピューテーショナルフォトグラフィ |
研究開始時の研究の概要 |
レンズの色収差を活用した高周波照明パターンの3次元空間投影という新しい投影技術により,透過光と散乱光を分離する3次元分光顕微鏡イメージング技術を確立する。最初に,本3次元顕微鏡イメージング手法の原理実証を行う。次に,試料内の光伝搬モデルを考案し,試料に適応的な照明投影による性能向上および,時間方向,3次元空間方向,波長情報方向への超解像化による顕微鏡イメージング技術の発展を図る。その後,ディジタルホログラフィ技術を導入し,透過光と散乱光を分離した本3次元イメージング手法の高速化,分光イメージング,食品検査や医療応用を見据えた実スケールの計測対象への適用に挑戦する。
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研究実績の概要 |
本年度は、これまでに構築してきた、複数の高周波照明パターンのサイズを投影することにより、試料の散乱の拡がり角度分布を推定する散乱角度特性推定手法の開発に取り組んだ。新型コロナウイルス感染症の影響下のため、本手法について実試料を用いての検証実験は余儀なく制限された状況であったが、細胞等の生体試料の相分離における各組織の構造や機能解析に、本手法を有効に活用できる可能性を見い出すことができた。 本手法で推定しようとしている実細胞試料における散乱特性は、他モダリティでも未知であることが判明した。潜在的なたんぱく質の相互作用を発見し、創薬や生物研究に役立てるための解析において、今まで利用されてこなかった散乱特性が、相互作用発見のための重要な手がかりとなり得るという本研究の意義を再確認できた。また、実細胞試料の散乱特性抽出や細胞研究分野における解析の高性能化を進めていく上でも、細胞の特徴量解析は必要不可欠であることがわかった。細胞研究に有効な部位の散乱特性を抽出できるようにするため、細胞特徴量解析として、実細胞試料から複数の画像特徴量抽出を試み、各々の有効性を確認すると共に、注目している複数のたんぱく質を蛍光染色した細胞画像の詳細解析も進めた。Gabor特徴量を用いた解析では、各たんぱく質の時系列ごとの状態間について、あるたんぱく質を抑制した条件下では通常条件と比較して低い相関性が得られる状態関係を抽出でき、理にかなった結果を確認できた。より詳細な分子情報と結び付けられるような特徴量抽出手法、および散乱特性解析手法の改良により、薬剤作用の理解や生物学的発見へつながると期待される。 異分野である細胞研究者の方々との研究交流より、蛍光染色を行わない細胞等の顕微鏡観察手法の可能性、および細胞等の機能解析などの新たな方向性に進展できたことも有意義である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、透過光と散乱光を分離する3次元顕微鏡イメージング技術の開発を目的とする。一般に、生体等の散乱体を多く含む試料において、散乱光の影響により透過光が不鮮明になり、透過光と散乱光が重畳された観測から吸収・散乱特性等の正しい計測は難しいことが知られている。これまで、散乱角度特性を計測する方法は、全方位について検出器を移動させながら計測する大掛かりな装置か、対象が均質な液体に限定されたマクロスケールにおける計測手法であった。 情報学のコンピューテーショナルフォトグラフィの概念を顕微鏡画像解析に発展させ、空間的に高周波な照明パターンのサイズと散乱角度の関係性を発見し、複雑な散乱過程を経て得られる散乱光について、各空間位置ごとの散乱角度特性の抽出を世界に先駆けて実現した。また、本手法を一般的な顕微鏡とフォトマスクのみの利用により簡易に実現できる点も、実用化に向けての大きな利点と言える。本研究が、医療画像処理分野におけるトップ国際会議(MICCAI2020)に採択されたことも、大きく評価できる点と考える。 また、細胞研究という異分野との交流により、細胞等の生体試料の相分離における各組織の構造や機能解析に、本手法を有効に活用できる可能性を発見できたことも、大変有意義である。さらに、実細胞試料による散乱特性抽出を進めるにあたり必要となる細胞画像の特徴量解析も推進でき、各たんぱく質の時系列ごとの状態間の理にかなった相関関係を抽出できた点は、非常に重要な成果である。 本手法により、蛍光染色を行わない細胞等の顕微鏡観察の可能性や、がん検出等にも有効であると近年注目されている散乱特性の病理診断への応用などの発展が見込まれる。今後も、散乱光除去による画質改善に加え、散乱角度特性に着目した組成、構造 、機能 、動態解析等の新たな散乱光分析法への貢献、薬剤作用の理解や生物学的発見へと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、複数の高周波照明パターンのサイズを投影することにより、試料の散乱の拡がり角度分布を推定する基本方式に基づいて、実試料を用いた検証を進める。既知の特性を持つ試料、および複雑な散乱光の伝搬が生じる細胞等の実試料について、本手法による詳細な特性解析を行い、その実現性と有効性を確認していく。 また、実試料を用いた詳細解析結果に基づき、本手法の改良を行うとともに、細胞の機能解析に応用できる散乱特性解析の発展手法の検討も進める。細胞研究に有効な部位の散乱特性を抽出できるようにするため、細胞特徴量解析を進め、実細胞試料から複数の画像特徴量の抽出を試み、各々の有効性を確認する。 さらに、生物試料等の観察や病理診断においては、散乱の拡がり角度ごとの散乱光の伝搬の詳細な解析と共に、複数の波長における解析も非常に有効と考えられる。従って、レンズの色収差を利用しつつ、各波長と各結像深さ位置の関係を考慮した複数波長における散乱角度特性の解析、タイムラプス等の時間変化をともなう対象の観察を実現する時間方向、3次元空間方向への拡張を試みる。また、このような場合において、コンピュータビジョンアプローチにより、観察画像の時間方向、3次元空間方向、波長情報方向への超解像化等の画質改善への適用、および計測の効率化の検討も進める。さらには、様々な食品検査や医療応用に向けて、実スケール対象物を観察できる技術発展にも挑戦する。
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