研究課題/領域番号 |
19K00087
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01030:宗教学関連
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研究機関 | 国際ファッション専門職大学 |
研究代表者 |
寺戸 淳子 国際ファッション専門職大学, 国際ファッション学部, 准教授 (80311249)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2022年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | キリスト教 / ケア / 共同体運動 / 知的障碍者 / 神秘主義 / セクト / カトリック / フランス / 宗教学 / 障害者 / 共生社会 / 市民貢献活動 / 尊厳 / 父性 |
研究開始時の研究の概要 |
<ラルシュ>共同体の4つの側面ついて、おもに欧米のキリスト教とは異なる宗教伝統の共同体を対象に調査し、欧米を基準になされてきた議論を批判的に参照しながら、次の点を明らかにする。①自他の「弱さ」を核心とする「依存関係の場」でありつつ、「弱さが暴力を生む場」という自覚と問題意識をもっていることの意義(内なる暴力性の問題)。②「女性的」とされる家庭的ケア領域に、特に若い男性が市民貢献活動として参加することの意義(「公/私」の領域区分の見直し)。③「ディスポニーブル」というキリスト教的倫理規範の通文化性。④諸宗教伝統に根差した祈りの共同体としての意義(宗教間対話とは異なる、宗教間交流の可能性)。
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研究実績の概要 |
ラルシュ共同体の創設者ジャン・バニエによるセクシャル・ハラスメント問題(2019年のバニエの死後、彼から霊的指導を受けていた複数の「障害のない成人女性」から、ハラスメント被害の報告と告発がなされた)について、ラルシュ共同体の依頼で発足した第三者委員会(歴史学、社会学、神学、精神分析学などの専門家チーム)によって2年間調査が行われ、2023年1月に900ページの調査報告書が公開された。これにより、研究者にはアクセスが望めなかった膨大な資料(若き日のバニエの霊的指導者であったドミニコ会士が唱えた「神秘主義的「性愛」の霊性」、彼を師として1950年代に形成された「セクト」、そこで行われたハラスメントを巡る教皇庁主導の調査・裁定、一番弟子としてバニエが受け継いだもの、ラルシュ共同体との関係、などについての、教皇庁や修道会の保管資料や私信も含めた非公開文書)の一端に触れることが可能となった。その分析から、報告書の最重要課題(教会組織の「正しい権威」を守り、「セクト」から正統神秘主義を守る)や、報告書のアプローチでは十分に議論されていない論点があることがわかった。特に、「「死」との和解の場」としてのラルシュ共同体の創設者が、「「性」との和解の場」として若き日に「カルト的」とみなされる共同体に参加し、その「性愛の霊性」を死ぬまで生きていたことは、共同研究(科研基盤(B))で調査・考察を行った〈エキップ・ノートル・ダム〉に代表される、カトリック世界における「性愛」をめぐる霊性の言説・実践(19世紀以降、特に20世紀半ば、フランスのカトリック世界で「カップル」「セクシュアリティ」の霊性を求める平信徒活動が高まった。成果論文:「『夫婦の愛、神への道』-二十世紀フランス・カトリック世界にける「カップル」」)と密接な関係があり、これらを関連づけて考察する必要があることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題申請時に計画していたアジアのラルシュ共同体の海外調査(フィリピン、バングラデシュ、インド)は2022年度も実施できなかったが、2020年2月に予備調査を行うことができたフィリピンの共同体については、関係者と定期的に連絡を取っている。またバングラデシュの共同体に関しては、長く共同体リーダーを務めていた日本人女性が、現在は他のプロジェクトのスタッフとしてバングラデシュで活動を続けており、彼女を通して、情報を得られる状況を維持している。 他方で、現在のラルシュ共同体においては、今回の「共同体創設者による長年のセクシャル・ハラスメント」問題を乗り越え、共同体としての在り方・意義を見直すことが最重要課題となっており、現状では本研究の目的・対象を、この問題の調査・分析に変更すべきと判断するに至った。世界各地で長く隠蔽され続け、近年ようやく被害者救済が始まった「カトリック司祭による児童性的虐待問題」とともに、創設者ジャン・バニエとその霊的指導者による「神秘主義的「性愛」の霊性」に基づくセクシャル・ハラスメントの事例は、カトリック教会世界の制度・思想が抱える根本問題と考えられるものに深く関わり、その考察は、「ラルシュ共同体の研究」という枠を越えていくものと推測される。また、バニエがラルシュ共同体での「ケア」を語る際に依拠していた「小ささ、貧しさの霊性」および「権威」への言及を考察することは、「依存関係」の評価を特徴とする現在の「ケア」学にも貢献するものと考える。現在、国際ラルシュ本部責任者や、調査した共同体(イギリス、フランス、日本、カナダ)と連絡を取り、申請者が今までに執筆したラルシュ共同体についての日本語の成果論文の英訳を送付するなどして、今後の調査の準備を整えたところである。
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今後の研究の推進方策 |
上記「研究実績」に記したことから、①キリスト教における「性愛」の「聖化/拒絶」の表裏一体性の歴史的研究、②そのような人間観をもつキリスト教文化圏に生まれた「人間の尊厳」概念の問題点の研究、③これらの研究を、「依存関係」を評価する現代「ケア学」を参照することで「自律性神話」(社会契約が可能な理性的個人)に基づく「社会契約」概念を批判的に検討する社会・倫理思想にフィードバックする、という、今後の研究の3つの課題が明確になった。この課題に関してすでに集めた文献の分析と並行して、さらなる文献収集と分析を進める。またこの問題点を念頭に、上記「進捗状況」で記したように、国際ラルシュ本部責任者や、今までに調査した共同体の関係者にメールやZoomを通してインタビュー調査を行い、国際ラルシュ本部責任者の協力を得ながら、第三者委員会や、資料の管理団体関係者とも連絡を取って、調査を進める。
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