研究課題/領域番号 |
19K00100
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分01040:思想史関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
廣瀬 浩司 筑波大学, 人文社会系, 教授 (90262089)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | メルロ=ポンティ / 制度 / 現象学 / 自然と文化 / レヴィ=ストロース / リュシアン・フェーヴル / マルセル・プルースト / 習慣 / プルースト / ヴァレリ / クローデル / 文学言語 / ヴァレリー / イメージ / 文学 / フーコー / 制度化 / 自然 / 芸術学 / フッサール / 記号 / シモンドン |
研究開始時の研究の概要 |
多文化社会と言われる現代において、文化と自然の関係を思想史的にどう考え直せばよいのか。この点に関して現象学者メルロ=ポンティは1954年度に「制度化」という概念を提唱したが、この概念は現在哲学・思想史で注目されている概念のひとつである。本研究では、その拡張をめざすべく、身体・文化芸術・自然という三つの視点から、多様化する現代に意義を持つ概念として展開することを目指す。そのために「制度のミクロ現象学」という視点を採用し、(A) 現代の心理学、シモンドンおよびフーコーの哲学、(B) 身体イメージとシンボル制作の関係(C)「無意識」と自然との関係、などを検討していく。
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研究実績の概要 |
・メルロ=ポンティの「制度化の現象学」について、とりわけ文献学的・思想史的な視点から、フランス国立図書館の電子書籍などで網羅的に資料を収集し、具体的に分析し、メルロ=ポンティ哲学全体における位置づけを検討した。そのことにより、制度の現象学は、文化と自然を横断し、動物や生命の次元に始まり、感情や情動の習慣性、言語的なシステムの変容可能性、そして歴史学における心性史や、文化人類学における親族体系に至る、さまざまな制度において、意味を生成させ、歴史的に沈澱させることが明らかになった。これはメルロ=ポンティの思想の変遷のなかで大きな転回点となることも示した。 その成果は、詳細な訳注と校訂をともなった翻訳としてみすず書房から今年度に書籍として刊行を目指している(刊行予定承認済)。またこれに関する論文を、メルロ=ポンティについての中心的学会の学会誌『メルロ=ポンティ研究』誌に発表する予定である(2024年度11月刊行予定)。 ・メルロ=ポンティと文学に関する一連の共同研究を踏まえ、「制度の裂目に立ち上がる言葉――メルロ=ポンティの文学論から──」という論考を執筆し、編者に提出、受領済である。論文は塚本昌則・鈴木雅雄編『文学としての人文知』(2024年水声社より刊行予定)に分担著として掲載される予定である。この論文においては、メルロ=ポンティにとって文学言語が、制度の主題と夢幻的なものの主題の交差点にあることを明らかにした。この視点から「制度的な無意識」というものについて語ることができるだろう。制度的無意識とは、無意識がすでに社会的なものに規定されていることを意味するのではない。それは現象の背後にあって、意識を操るものではないのだ。それはむしろ意識の眼前に開ける風景に含まれているものであり、そこにおいて「レリーフ」「襞」「リズム」としてのみ、夢幻的かつ間接的に確認されるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
制度の現象学という構想について、生命、芸術、言語、歴史、人類学といったさまざまな領域を横断し、とりわけ未邦訳の講義草稿『制度化/受動性』を集中的に研究することで、まさにミクロな視点から、自然と文化の対立を越えた意味の現象の生成をたどることができたのは貴重であった。また翻訳及び注釈というかたちで、みすず書房から出版することを受諾されたことも社会還元のためにたいへん重要なものとなるだろう。この翻訳・注釈はこれからのメルロ=ポンティ研究の基礎資料のひとつとなると思われる。 また文学、精神分析家等との研究会や学術交流の経験を経て、本研究で挙げた成果を、分担著として出版できる予定(論文提出、受諾済)であることも重要である。というのもとりわけ文学言語と精神分析は、制度化の問題とまさにメルロ=ポンティが平行しておこなっていた「受動性」についての講義と密接に結びついており、それによって制度化概念の理解を一層深めることができたからである。 このように一方では制度の「歴史性」を探求しつつ、そこにひそむ受動的な沈澱についての「記憶」や「忘却」や「眠り」についても研究を深めることができたのは、大きな収穫であった。この視点からは、とりわけメルロ=ポンティの芸術一般についての考察に新たな光をあてることを可能にすることができたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は以下の三つの視点からの総括に集中することになる。 1)本研究の課題である、「ミクロ現象学」という学問の哲学的基礎付けを確立すること。フッサール、ハイデガー、レヴィナスといった先行する哲学者との対峙も重要であるが、近年フランスにおいてメルロ=ポンティの制度化概念についての二つの若手研究者の研究が出版されたので、それをも考慮することにより、現代のフランス現象学において、本研究がどのような意義を持つかをみきわめたい。そのことによって、私が編集委員をつとめている「国際メルロ=ポンティ協会」の『キアスム』誌における学術交流のための基礎を固めることができるであろう。 2)メルロ=ポンティ以後の科学、人文・社会科学、文学への本研究の成果の応用。これまではメルロ=ポンティがすでに論じていた科学、人文学、文学との交流を中心に文献学的に作業をすすめてきたが、それらのその後の展開を考慮することによって、制度化概念の応用的な価値を検証するための礎をかためたい。とりわけ現在考えているのは、科学におけるオートポイエーシス理論との関係の再考察、そして社会学や人類学などにおける新しい展開(デスコラ、インゴルドなど)との突き合わせから始めることを計画している。どちらもメルロ=ポンティ哲学をさらに進展させようとしている営みであるので、それに制度のミクロ現象学の視点をどのように組みこんでいけるのか、専門的な立場から吟味していきたい。
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